洋画紳士:今日はチリのカルメネール(Carmenere)を飲んでみましょう。
南 海 子:あまり聞かない名前のブドウですね。フランスでも作っていますか?
酒豪先生:以前はボルドーでも作っていたのですが、1880年代にフィロキセラ禍がフランス中に広まってワイナリーが全滅していまい、以来この品種はほとんど作っていないようです。そういう訳でフランスでは過去の品種ですが、チリへはフィロキセラ禍の前、1850年代に苗木を植えたと聞きました。
南 海 子:そうだったんですか。偶然が、危ないところでこの品種を救ったんですね。
洋画紳士:『世界のワイン』(ガイアブックス刊、ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンスン共著、山本博監修)によると、1990年代にフランスのブドウ栽培の専門家が調査するまで、チリではカルメネールというのはメルロの仲間だと思われていたというのも面白い話です。
南 海 子:ブドウの味や形が似ているのかしら。
洋画紳士:今ではちゃんと区別されて、メルロはメルロ、カルメネールはカルメネールとして栽培されているそうです。さて、今日の三本のチリ・ワインはそれぞれカルメネールから作られたものですが(パープルエンジェルのみ、カルメネール92%、プチヴェルド8%のブレンド)、値段はかなり違っています。
★左からラプラヤ・ブロックセレクション(2004年、13.5%)1350円
★真ん中がラプラヤ・アクセル(2005年、14%)2600円
★右がモンテス・パープルエンジェル(2006年、14.5%)5800円ですので、つまり倍々の値付けです。
酒豪先生:そうでしたか、値段を聞くまでそれほどの価格差があるとは思わなかったな。
南 海 子:まず、一番安いブロックセレクションでもかなりおいしいと思いました。完成度が高いですね。
酒豪先生:私もそう思います。1300円台なら大発見ですね。もし2000円台だといわれても納得できる味です。この品種は文字通りチリのテロワールに合っていたのでしょうね。
洋画紳士:では、アクセルはどうでしょうか、ワイナリは同じラプラヤですが・・・
酒豪先生:舌に乗った時のなめらかさはさすがにいいと感じました。でも値段が二倍もするのなら、ブロックセレクションを二本買います。
洋画紳士:同感です。アクセルが悪いというのではなく、ブロックセレクションの方がコスト/パフォーマンスが高いということでしょう。
南 海 子:このパープルエンジェルは瓶が大きくて重い。味も重量級で、複雑な要素で構成されているようです。
酒豪先生:高いだけのことはあります。ビロードみたいな舌触りで、ザラザラ感はまるでない。軽いシブミも味を複雑にしています。
洋画紳士:グラスにつく縦縞が目立ちます。筋がはっきり見えるほどですから。
南 海 子:喉を通った後でも口の中に味が残っていて、別格という感じ。大きくて重い瓶は、この重い味のワインを入れておくのに必要な要件だったのですね・・・私の印象を喩えて言うと「雨上がりの草原の香り」というところです。
洋画紳士:ソムリエ試験のようですが・・・
酒豪先生:これは記憶なので正確ではないかもしれませんが、以前飲んだオーパス・ワンの色に近いと思いませんか。総合点でもカリフォルニア・ワインの傑作と太刀打できる水準です。
洋画紳士:さっきの『世界のワイン』によると「カルメネールは他のボルドー種とブレンドするとき、その個性を最大限に発揮する」と書いてありますが、このワインもプチ・ヴェルドとブレンドしたものです。
南 海 子:セオリー通りだったわけですね。チリ・ワインの傑作を飲むことができて今日は大満足です。
◎追記:パープル・エンジェルは、2010年春からJAL(日本航空)国際線ファーストクラスで提供されるようになるそうです。