2010年2月7日日曜日

Franciscan フランシスカン・カリフォルニア・メルロ・2005・13.5%




■ナパヴァレーの実力派ワインを味わう。
洋画紳士:フランシスカンはカリフォルニア・ナパヴァレーのワイナリーで、有名なオーパスワンの畑と道一本隔てただけの場所にあるそうです。
酒豪先生:おもしろいものでブドウ畑というのは、隣接しているからといって同じワインができるとは限らないのです。
南 海 子:そうらしいですね、ボルドーやブルゴーニュでも同様ですが、隣接したりして立地的にはほぼ同じなのに製品としてのワインは違ってくるのですからね。
洋画紳士:でも、フランシスカンはナパヴァレーでも評価の高いワイナリーですし、素性もよさそうです。しかも値段が3000円以下ですからお買い得じゃありませんか。
南 海 子:グラスを鼻に近づけた時の、最初の香りがいい。それから少し口に含んだ時に「梅の甘味」を感じました。
酒豪先生:味にクオリティがありますね。まっとうな作り方をしているんだろうな。
洋画紳士:「梅の甘味」というのは南海子さん独特の表現ですが、言い得て妙ですね。
南 海 子:そうでしょう、おいしいという意味ですから。それにしてもいいワインを見つけましたね。絶対評価でもおいしいし、コスト/パフォーマンスを考えると最上クラスです。

南 海 子:ところでワインの宣伝文に「収穫は手摘みで行っている」と書かれていることがありますが、現在、ワインを作るときのブドウはすべて手摘みなのですか?
酒豪先生:高級ワインはもちろんですが、中級くらいから手摘みのようですね。
洋画紳士:果実の収穫をする人のことを英語で"picker"「ピッカー」と呼ぶのですが、"pick" という単語には「選び取る」という意味があります。ですから、"pick" はただブドウを摘むのではなく、完熟ブドウを「選んで摘み取る」ことなのです。十把一絡げの機械摘みよりは後の選別作業もやりやすいでしょう。ワイン作りは何といってもいいブドウがあって始まるのですから、摘み取りは大切な作業なのです。
酒豪先生:それはその通り。でもいいブドウを作るためにはいい畑が必要だし、その土地、気候(テロワール)に合ったブドウ種を選択しなければならないのではありませんか。ワイン作りは総合点が大事だと思います。
南 海 子:つまり、自然と人間との協力がうまくいくかどうかがワインの出来を決めるわけね。
洋画紳士:さて、摘み取りに関して言えば、スタインベックの小説をジョン・フォード監督が映画化した『怒りの葡萄』"The Grapes of Wrath" という作品がありました。1930年代、オクラホマの貧農たちが小作畑を追い出されてカリフォルニアに新天地を求めて移住する話です。
南 海 子:洋画紳士お得意の話題ですね。でもスタインベックの『怒りの葡萄』はワイン作りの話でしたっけ?
洋画紳士:いいえ、そうではありません。ぼくは「摘み手」"picker" のことを言おうとしているのです。農民たちは一枚のチラシに一縷の望みを抱いて移住を決意するのですが、そのチラシにはカリフォルニアの農園で果実の摘み取り人を大量に募集していると書かれており、賃金も悪くない。家族総出で働けばやっていけると思ったのです。彼らがカリフォルニアで最初にありついた仕事は桃の収穫でしたが、強欲な農園経営者とトラブルになり、そこを逃げ出して次に見つけた仕事は綿花の摘み取りでした。
酒豪先生:え、ブドウ摘みではなかったのですか?タイトルから想像してブドウ農園が舞台かと思っていたのですが・・・
洋画紳士:『怒りの葡萄』という題名の由来は、農園の悪徳経営者に対する怒りが、たわわに実るブドウのように貧農民たちの内で大きくなってゆくという、賛美歌から採った比喩なのです。 というわけでブドウ畑は(そして桃畑も綿畑も)スクリーンには出てきません。それに "The Peaches of Wrath" ではタイトルとして迫力がない。また、スタインベックは社会主義のシンパだったようで、果実収穫の季節労働者が足元を見られて低賃金で使われる様子を告発したかったのでしょう。
酒豪先生:おやおや、また映画論ですか、洋画紳士はそういったことに憑り付かれているようですね。そもそも完熟したブドウをどうやって収穫するかという話題がなぜ映画や言葉の話題に移ってしまうのか分かりません、困ったことです。
南 海 子:それは洋画紳士の感性ということでいいじゃありませんか。私たちはそれぞれ異なる価値観の中で育ってきたのですし、感性の違いだって認めなくてはいけないと思いますよ。洋画紳士はブドウを収穫する季節労働者をイメージした瞬間、カリフォルニアを舞台にした『怒りの葡萄』を思い浮かべたのでしょうね。
■評価
南 海 子:4.5
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4