洋画紳士:先月末にチリで大地震が起きました。偶然ですが今夜のワインはチリ・マイポヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンです。
南 海 子:マイポの近くが震源だったのでしょうか?
酒豪先生:いえ、距離はだいぶ離れているようで首都サンチャゴの南にあるコンセプシオンという街の近くらしい。震源の付近にもワイナリがたくさんあるようです。
洋画紳士:そうですか・・・ところでマイポ・ヴァレーというのはチリ有数のワイン産地のひとつですが、おもしろいのは、このワインの名前です。会社名やワイナリ名がついていません。その代わりに "Baron Philippe de Rothschild" と銘打たれていて、あとはブドウ種とReservaと書かれているだけです。
南 海 子:どういうことかしら。
洋画紳士:ロートシルト家の技術を使って、チリでワインを生産しているという強い主張が名前に込められているのでしょう。
酒豪先生:ロートシルト家の名のつく一級格付けのシャトーはボルドーに二つあります。(そのうちのひとつであるムートン・ロートシルトが二級から一級に格上げされたのは1973年のことで、こんなことは過去になかったことです。この異例の見直しは Baron Philippe de Rothschild の多大な尽力があったと言われています)。さらにカリフォルニアでは「オーパス・ワン」を、チリでは「アルマヴィーバ」を共同で生産し、それぞれ最高級の評価を得ているのですから、さずがです。
洋画紳士:その土地で採れる最上のブドウとロートシルト家がボルドーで培った技術との幸福な結びつきによって傑作が作られたわけですね。「オーパス・ワン」、「アルマヴィーバ」と高級路線で成功したので今度は自信をもって Baron Philippe de Rothschild の名前を前面に出したのでしょう。
南 海 子:フィリップ・ド・ロートシルト男爵というのはどういう人ですか?
酒豪先生:フランス人です。ユダヤ系大財閥の御曹子で、野心家だったらしいですね。
洋画紳士: Rothschild というのは英語読みで「ロスチャイルド」です。お金持ちといってもスケールが違う。何しろ戦争の時、国家に戦費を貸し付ける程の財力を持っていたのですから。
南 海 子:そうですか、才覚と野心があってお金持ちだったら、文字通り鬼に金棒ですね。何でもできてしまう。
酒豪先生:そう、ワインの世界に君臨しようとしたのですからね。
酒豪先生:さて、前置きが長すぎました。試飲を始めましょう。グラスから立ち上る香りがいいですね。そして滑らかさがあって、おいしいと思います。
南 海 子:そう、いいですね。まだ若い(2008年)せいもあるかもしれませんが、ボルドー風というより新世界ワインの味の傾向です。あと数年は寝かしておいてから飲んでみたい。
洋画紳士:なるほど、素性がいいだけに評価するには早すぎたかもしれません。
酒豪先生:最近は飲み手がせっかちになったせいか、若いうちに飲むようになっているので、ワイナリでも早く飲まれることを前提に出荷しているかもしれませんよ。
私個人としては、今でも十分においしいし、これが2000円くらいで買えるのなら十分な品質だと思います。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4