2010年3月16日火曜日

Baron Philippe de Rothschild      バロン・フィリップ・ド・ロートシルト   チリ・マイポ 2008 14%




洋画紳士:先月末にチリで大地震が起きました。偶然ですが今夜のワインはチリ・マイポヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンです。
南 海 子:マイポの近くが震源だったのでしょうか?
酒豪先生:いえ、距離はだいぶ離れているようで首都サンチャゴの南にあるコンセプシオンという街の近くらしい。震源の付近にもワイナリがたくさんあるようです。
洋画紳士:そうですか・・・ところでマイポ・ヴァレーというのはチリ有数のワイン産地のひとつですが、おもしろいのは、このワインの名前です。会社名やワイナリ名がついていません。その代わりに "Baron Philippe de Rothschild" と銘打たれていて、あとはブドウ種とReservaと書かれているだけです。
南 海 子:どういうことかしら。
洋画紳士:ロートシルト家の技術を使って、チリでワインを生産しているという強い主張が名前に込められているのでしょう。
酒豪先生:ロートシルト家の名のつく一級格付けのシャトーはボルドーに二つあります。(そのうちのひとつであるムートン・ロートシルトが二級から一級に格上げされたのは1973年のことで、こんなことは過去になかったことです。この異例の見直しは Baron Philippe de Rothschild の多大な尽力があったと言われています)。さらにカリフォルニアでは「オーパス・ワン」を、チリでは「アルマヴィーバ」を共同で生産し、それぞれ最高級の評価を得ているのですから、さずがです。
洋画紳士:その土地で採れる最上のブドウとロートシルト家がボルドーで培った技術との幸福な結びつきによって傑作が作られたわけですね。「オーパス・ワン」、「アルマヴィーバ」と高級路線で成功したので今度は自信をもって Baron Philippe de Rothschild の名前を前面に出したのでしょう。
南 海 子:フィリップ・ド・ロートシルト男爵というのはどういう人ですか?
酒豪先生:フランス人です。ユダヤ系大財閥の御曹子で、野心家だったらしいですね。
洋画紳士: Rothschild というのは英語読みで「ロスチャイルド」です。お金持ちといってもスケールが違う。何しろ戦争の時、国家に戦費を貸し付ける程の財力を持っていたのですから。
南 海 子:そうですか、才覚と野心があってお金持ちだったら、文字通り鬼に金棒ですね。何でもできてしまう。
酒豪先生:そう、ワインの世界に君臨しようとしたのですからね。

酒豪先生:さて、前置きが長すぎました。試飲を始めましょう。グラスから立ち上る香りがいいですね。そして滑らかさがあって、おいしいと思います。
南 海 子:そう、いいですね。まだ若い(2008年)せいもあるかもしれませんが、ボルドー風というより新世界ワインの味の傾向です。あと数年は寝かしておいてから飲んでみたい。
洋画紳士:なるほど、素性がいいだけに評価するには早すぎたかもしれません。
酒豪先生:最近は飲み手がせっかちになったせいか、若いうちに飲むようになっているので、ワイナリでも早く飲まれることを前提に出荷しているかもしれませんよ。
私個人としては、今でも十分においしいし、これが2000円くらいで買えるのなら十分な品質だと思います。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4

2010年2月7日日曜日

Franciscan フランシスカン・カリフォルニア・メルロ・2005・13.5%




■ナパヴァレーの実力派ワインを味わう。
洋画紳士:フランシスカンはカリフォルニア・ナパヴァレーのワイナリーで、有名なオーパスワンの畑と道一本隔てただけの場所にあるそうです。
酒豪先生:おもしろいものでブドウ畑というのは、隣接しているからといって同じワインができるとは限らないのです。
南 海 子:そうらしいですね、ボルドーやブルゴーニュでも同様ですが、隣接したりして立地的にはほぼ同じなのに製品としてのワインは違ってくるのですからね。
洋画紳士:でも、フランシスカンはナパヴァレーでも評価の高いワイナリーですし、素性もよさそうです。しかも値段が3000円以下ですからお買い得じゃありませんか。
南 海 子:グラスを鼻に近づけた時の、最初の香りがいい。それから少し口に含んだ時に「梅の甘味」を感じました。
酒豪先生:味にクオリティがありますね。まっとうな作り方をしているんだろうな。
洋画紳士:「梅の甘味」というのは南海子さん独特の表現ですが、言い得て妙ですね。
南 海 子:そうでしょう、おいしいという意味ですから。それにしてもいいワインを見つけましたね。絶対評価でもおいしいし、コスト/パフォーマンスを考えると最上クラスです。

南 海 子:ところでワインの宣伝文に「収穫は手摘みで行っている」と書かれていることがありますが、現在、ワインを作るときのブドウはすべて手摘みなのですか?
酒豪先生:高級ワインはもちろんですが、中級くらいから手摘みのようですね。
洋画紳士:果実の収穫をする人のことを英語で"picker"「ピッカー」と呼ぶのですが、"pick" という単語には「選び取る」という意味があります。ですから、"pick" はただブドウを摘むのではなく、完熟ブドウを「選んで摘み取る」ことなのです。十把一絡げの機械摘みよりは後の選別作業もやりやすいでしょう。ワイン作りは何といってもいいブドウがあって始まるのですから、摘み取りは大切な作業なのです。
酒豪先生:それはその通り。でもいいブドウを作るためにはいい畑が必要だし、その土地、気候(テロワール)に合ったブドウ種を選択しなければならないのではありませんか。ワイン作りは総合点が大事だと思います。
南 海 子:つまり、自然と人間との協力がうまくいくかどうかがワインの出来を決めるわけね。
洋画紳士:さて、摘み取りに関して言えば、スタインベックの小説をジョン・フォード監督が映画化した『怒りの葡萄』"The Grapes of Wrath" という作品がありました。1930年代、オクラホマの貧農たちが小作畑を追い出されてカリフォルニアに新天地を求めて移住する話です。
南 海 子:洋画紳士お得意の話題ですね。でもスタインベックの『怒りの葡萄』はワイン作りの話でしたっけ?
洋画紳士:いいえ、そうではありません。ぼくは「摘み手」"picker" のことを言おうとしているのです。農民たちは一枚のチラシに一縷の望みを抱いて移住を決意するのですが、そのチラシにはカリフォルニアの農園で果実の摘み取り人を大量に募集していると書かれており、賃金も悪くない。家族総出で働けばやっていけると思ったのです。彼らがカリフォルニアで最初にありついた仕事は桃の収穫でしたが、強欲な農園経営者とトラブルになり、そこを逃げ出して次に見つけた仕事は綿花の摘み取りでした。
酒豪先生:え、ブドウ摘みではなかったのですか?タイトルから想像してブドウ農園が舞台かと思っていたのですが・・・
洋画紳士:『怒りの葡萄』という題名の由来は、農園の悪徳経営者に対する怒りが、たわわに実るブドウのように貧農民たちの内で大きくなってゆくという、賛美歌から採った比喩なのです。 というわけでブドウ畑は(そして桃畑も綿畑も)スクリーンには出てきません。それに "The Peaches of Wrath" ではタイトルとして迫力がない。また、スタインベックは社会主義のシンパだったようで、果実収穫の季節労働者が足元を見られて低賃金で使われる様子を告発したかったのでしょう。
酒豪先生:おやおや、また映画論ですか、洋画紳士はそういったことに憑り付かれているようですね。そもそも完熟したブドウをどうやって収穫するかという話題がなぜ映画や言葉の話題に移ってしまうのか分かりません、困ったことです。
南 海 子:それは洋画紳士の感性ということでいいじゃありませんか。私たちはそれぞれ異なる価値観の中で育ってきたのですし、感性の違いだって認めなくてはいけないと思いますよ。洋画紳士はブドウを収穫する季節労働者をイメージした瞬間、カリフォルニアを舞台にした『怒りの葡萄』を思い浮かべたのでしょうね。
■評価
南 海 子:4.5
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4

2010年1月24日日曜日

Chateau Bellevue シャトー・ベルヴュー 1990 12.5%





















■1990年ヴィンテージのボルドーを飲む。
洋画紳士:これまでは新世界ワインを取上げることが多かったので、2010年最初の試飲はボルドーにしてみましょう。しかも優良ヴィンテージの誉れ高い1990年ものです。
南 海 子:ワイン雑誌には1990年は「秀逸」な年だったと書かれていますね。丸十九年経っているのですからお値段も高かったんじゃありませんか?
洋画紳士:あまり期待し過ぎないでください。1990年ものといっても格付けされた高級ワインではありません。普通のボルドーで(Bordeaux Superieur)、値段が安かったので買ってみたのです。
南 海 子:そうですか・・・でも色は熟成されたワインの色です。茶色がかっていて、薄い色ですね。
酒豪先生:悪くありませんよ。2000円前後で買えたのなら上等の味です。コルクは劣化してるようで変色していますし、ワインに触れている部分には酒石酸の結晶が付いていますね。
南 海 子:ほんとだ、いくつも光っています(青背景の写真参照)。
洋画紳士:この結晶は飲んでもかまわないものですか。
酒豪先生:何でもありませんよ。コルクに付いているということは底にも沈んでいるはずですが、飲んでも平気です。おいしいわけではありませんが。
南 海 子:香りの成分の中に一種のカビ臭さを感じます。別に悪いという意味ではなくて、比喩ですから。熟成の証拠に飲んだ後に口から鼻にかけて深い味わいが残っていますね。
酒豪先生:色はいいけれど、高級ワインの年代物を飲んだ時に感じる強い印象はないですね。
洋画紳士:それはそうです。値段との相対評価でなければ、不公平というものです。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:3.5