2013年10月21日月曜日

■ロバート・パーカー Jr. という男~またはMORANDE・シャルドネの評価をめぐって~

洋画紳士:ぼくはこれまで「パーカーポイント」なるものをそれ程高く評価してきませんでしたが、この二本のワインを飲み比べてみて、改めてRobert Parker Jr.という男の鑑定眼(というのか味覚の鋭さ)に驚かされました。
酒豪先生:おや、宗旨替えですか。
南 海 子:洋画紳士お得意の豹変ですね、いったいどうしたんですか。
洋画紳士:このMORANDEというのはチリ・カサブランカヴァレーの優秀なワイナリの一つですが、そこの中級クラスのシャルドネがPP(パーカーポイント)90点だったというのでデパートの売場の人に勧められて一本買ってみたのです(写真・右、2008年)。味の濃さが僕好みだったこともありましたが、これは発見だと思ったものでした。
南 海 子:そうでしたね、舌に重さを感じるくらいの濃厚さが印象的でした。三人とも高く評価したのではなかったかしら。
酒豪先生:もうだいぶ前のことだからそうはっきりと覚えているわけではありませんが、いいワインを見つけてきたなと思いました。
洋画紳士:円熟してこってりしているというだけでなく、シャルドネの一種の到達点に近いとさえ思ったものでした。
酒豪先生:まあ、「一つの」高みには達しているかもしれませんが、シャルドネ種といっても地域ごとに気候風土が違うのですから、ブドウの出来からして変わってくるのです。チリのシャルドネとしては悪くはありませんが、ブルゴーニュの上等のワインと比べるとまだまだ、それ程高く評価するわけにはいきませんね。
南 海 子:でもそれは値段が違うから比較の対象にはならないような気がしますけど・・・
酒豪先生:評価は値段抜きで絶対評価すべき場合と、価格帯ごとのBestBuy的な評価があると思いますね。洋画紳士があまり誉めるのでつい絶対評価で言ってしましました。
ちょっと脱線してしまいそうですが、ここ数年、特にフランスの高級ワインが値上がりしています。いくつか理由はあるでしょうが、アジアのこれまではワイン消費国でなかった国々での需要急増が大きいと思います。
南 海 子:高級ワインにだんだん手が届かなくなってきましたね。でも新世界ワインの無名でも優秀なワイナリの製品を見つける楽しみが出てきました。
洋画紳士:そのとおり、フランスの高級ワインの値上がりには僕も業腹ですが、それはそれとして、MORANDEのシャルドネには価格を問わない絶対値としてのクオリティを感じたものですから、こうして二本を並べてみたのです。
酒豪先生:ずいぶん思い入れが強いようですが・・・
洋画紳士:つまりですね、僕が受けた衝撃というのは二重のものだったんです。MORANDEの品質の高さが一つ。もう一つはチリの一ワイナリに過ぎない醸造所の、いわば無名のシャルドネを高く評価したロバート・パーカーという男の眼力に驚いたことが相乗しているのです。
そして、もう一つ驚いたのは、同じワイナリの2011年もののシャルドネ(写真左)を飲んでみて、2008年ものと比べると何かがないことに気がつきました。何かがといってもそれは品質とかで語られるものではないでしょうね。2011年ものも優れています。しかし、somethingがない。そして2011年ものにはパーカーポイントはありません。パーカーは・・・
酒豪先生:その違いに気が付いて、2011年ものにはポイントをつけなかった。
洋画紳士:僕は、一種、恐れ入ったという気がしたものです。
南 海 子:洋画紳士は自信をつけすぎではありませんか、それではあなたとロバート・パーカーとが同レベルの鑑定家であるかのように聞こえてしまいます。
洋画紳士:いや、べつに自惚れているわけではありません。図書館にあった大部の著作「ボルドー・ワイン」を見ただけで、研究の絶対量に感服しました。持って生まれた味覚だけではなく、膨大な学識があり、しかもワイン造りの現場をくまなく調査しているようなのです。彼の評価がワインの相場を左右することはおかしいと思っていますが、それは別に彼の責任ではないでしょう。100点満点の評価システムが市場で安易に受け入れられたことに問題があるので、鑑定家としてのパーカー氏に非はありませんよ。
酒豪先生:それはそうです。数値でワインを評価するというのはとても分かりやすい方法です。しかし、数字はワインの何を語っているのでしょうか。
洋画紳士:それはパーカー氏の味覚を基準にした相対値でしょう。
酒豪先生:しかし、その数字信仰は、一人の人間(いかに優れていたとしても)の味覚でワインを語り尽くせるものではないという事実の前で、自己撞着しませんか。
南 海 子:洋画紳士はこの二本のワインの評価をきっかけにPP(パーカーポイント)信者になったんですか。
洋画紳士:いえ、そうでもありません。彼の実力はたいへんなものでしょうが、自分の評価は自分のものですから。いくら僕がワインについて未熟でも、味覚は本来個人個人のものです。特に子供時代の環境で作られるような気がします。そうしたバックグラウンドなしに、大御所の評価を鵜呑みにして大金を払う気はしませんね。
南 海 子:その日の気分やお天気によっても味覚は変化しますから、鑑定家の意見はほどほどにということかしら。
酒豪先生:パーカーポイントも酒の肴ですよ。

■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5

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