2009年8月30日日曜日

番外編・その1 「三酔人ワイン問答」の小道具たち


洋画紳士:今回は番外編ということで、このブログの名称の由来とか記録のための小道具を話題にしてみましょう。
南 海 子:どうして 「三酔人ワイン問答」という題にしたんですか?
洋画紳士:この題にそれほどの思い入れがあったわけではないのですが、ちょうど三人で試飲会をしていたから、「三酔人」という言葉はすぐに思いついたんです。それから『三酔人経綸問答』を連想するまでに時間はかかりませんでした。
南 海 子:「経綸」(けいりん)というのはあまり聞かない言葉ですね。
豪先生:辞書で調べてみたら「国を治めととのえること。また、その方策」と書いてあります(新辞林・三省堂)。
洋画紳士:そう、あまり使わない言葉ですね。でも「経綸問答」を「ワイン問答」に置換えるとタイトルとして納まりがいいことに気が付いて、あまり迷うことなく、この題に決めたのです。
酒豪先生:『三酔人経綸問答』(中江兆民著、桑原武夫・島田虔次訳、岩波文庫・青版110-1)には原文と現代語訳の両方が載っていますが、原文は難しいですね。『三酔人経綸問答』の初版は明治20年(1887年)に東京集成社から出版されたと解説には書いてありますが、この120余年の間に当時の日本語がすっかり外国語になったかのようで、読めなくなったわけですね。
洋画紳士:そう、読みづらいですね。私も訳文の方を読んだのですが、洋学紳士が現代(19C)欧米諸国の繁栄を評して「自由の大義こそ、この(国家という)大建築の基礎をなすものだ」と述べ、欧米列強の歴史や文化を分析した後でこんな喩えを持ち出しています;「人間社会のあらゆる事業は、たとえて言えば、酒のようなもの、自由は酵母のようなものです。ブドウ酒でもビールでも、材料がいかによくても、もし酵母というものがなければ、材料はみな桶の底に沈殿して、アルコールを醸し出させようとしてもダメです。専制国の事物はみな酵母のない酒です。みな桶の底の沈殿物です。」(岩波文庫版・25p)
南 海 子:ちょうどワインの発酵にたとえて社会を語っているわけですね。
酒豪先生:中江兆民は一つの比喩として使っただけでしょうが、現代のワイン醸造においてはブドウに偶然くっついていた酵母が自然発酵してできるというような素朴なものではない。そのブドウ種や気候、風土に最適な酵母をクローンで増やしてステンレス製発酵槽に投入しているのです。
洋画紳士:兆民の言う「自由という酵母」は、ワイン醸造においてはクローン酵母になって地域性を薄めつつあり、また社会における自由は、国家の礎だったものが勝手気ままにまで成り下がったというわけですね。
南 海 子:あ、洋画紳士お得意のアナロジーですか。
洋画紳士:たまたま思いついただけですよ。


洋画紳士:会話の記録にはICレコーダーを使っていますが、ごくベーシックなもの(オリンパス、VN-3200)です。
南 海 子:カセットよりもずっと小さくて、使いやすいですね。
洋画紳士:ICレコーダーはカセットとは比較できないくらい長時間録音ができます。
酒豪先生:電源は充電式ですか?
洋画紳士:いえ、単四アルカリを二本使います。これはどこでも入手できるので充電式リチウムよりも便利だと思います。でも、この機種は音声データをパソコンで管理することができないので、もう型が古いですね。
南 海 子:べつにパソコンに入らなくても音声メモだけで十分じゃないですか。
洋画紳士:それは考え方ですね。使い方によっては音声データをパソコンで管理した方が便利な場合もあるでしょう。事実、この手の旧式レコーダーは生産しないようです。
酒豪先生:ところで飲んでいる時にノートにメモを取るのは煩わしくないですか。
洋画紳士:いえ、なんでもないですね。むしろワインの印象を語る言葉にピンときた時に書き留めておいた方が後でまとめやすいことに気が付きました。
南 海 子:録音を全部聞き直すことはない?
洋画紳士:ほとんどないですね。ICレコーダーは記憶がはっきりしない時のための確認用です。メモはボールペンで走り書きしますから、大した道具は必要ない。
酒豪先生:必要なものは、いいワインと味の分かる人間だけ、というわけですね。

コノスル 20バレル(ピノノワール 14%、ソーヴィニヨン・ブラン 13.5%)2007




洋画紳士:チリのハイ・コスト/パフォーマンス・ワインの代表格CONO SUR(コノスル)は、商品ラインアップをグレード別に3つに分けている(有機栽培を入れると4つ)。最上級には"OCIO" があるようですが、これは入荷数が少なすぎて私はまだ見たこともないので、普通に買える商品で一番上の20バレルを飲んでみましょう。20バレル・シリーズには他にもシャルドネ、メルロー、カベルネソーヴィニヨンがありますが、一度には飲めないので、差当たりピノノワール、ソーヴィニヨン・ブランから始めます。
酒豪先生:分かりました。メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどはボルドー系との比較ということで後日、対決させてみてもいいですね。
南 海 子:私はこのソーヴィニヨン・ブランは香りもいいし、口に含むと草原の香りがして、好きな味です。
洋画紳士:白というとシャルドネばかりがスター扱いされるけど、シャルドネがいつも最高というわけではないし、ここまで高品質で味がいいと「隅には置けない」という感じです。
酒豪先生:そう、舌先にフルーツ味を感じますね。おいしい。チリ・ワインはコノスルに限らず、本当にコスト/パフォーマンスが高い。もし、ブランド作りがうまくいけばカリフォルニアのスター・ワイナリーみたいになるかもしれない。
南 海 子:そうなる前にまとめ買いしておきましょうか。
洋画紳士:さて、20バレル・シリーズはその名の通り、毎年そのブドウ種(セパージュ)ごとに20樽しか作らないという限定版なのです。
南 海 子:20バレルのラベルはごくシンプルな白地ですが、他のグレードのラベルには、どういうわけか自転車の絵が描かれているでしょう。あれには何か意味があるの?
洋画紳士:ぼくが想像するに、この会社は環境問題に意識的になっているようです。カーボンニュートラルといって、二酸化炭素の排出と吸収とが同等になるよう工夫していて、たとえば従業員が畑に出かける時には自転車を使っているようです。だから、環境を意識した活動の象徴としてラベルに自転車を描いたのだと思います。
南 海 子:そうですか。じゃあ、コノスルというのは自転車のこと?
洋画紳士:いえ、自転車はビシクレータ(bicicleta)。社名の由来は、南米大陸が円錐形(CONO)をしていて、そこの南側(SUR)に会社があるためにコノスルとしたようです。
南 海 子:ヴィクトル・エリセ監督の作品に「エル・スール」というのがありましたが・・
洋画紳士:"El Sur" というのは「南」という意味です。
南 海 子:「エル・スール」では大した事件が起きるわけではないけれど(父親の死は示唆されるだけで、画面上に表現されるわけではない)少女の感性を映像化したような不思議な映画でした。
洋画紳士:地味ながら粘り強い演出でしたね。ああいう作家性の強い映画は貴重です。
酒豪先生:さて、洋画先生らしい薀蓄は結構ですが、言葉についての前置きが長すぎますね。スペイン語の勉強会ではないので、しっかりと本題の試飲をしましょう。ぼくはこのピノノワールもいいと思う。
南 海 子:洋画紳士はいつも脱線ばっかり。映画だとか音楽、絵画と連想の範囲が広すぎますよ。試飲会なんですからちゃんとワインのことを話してください。
話をワインに戻せば、このワインはブドウ種がブルゴーニュのセパージュと違っているのか、色も濃い目だし、風味も違いますね。でも、ピノノワールにしては「梅の甘味」を強く感じます。いいワインですね。
洋画紳士:同じ品種でも気候風土が異なれば当然、できるブドウも変わってくるはずで、チリでブルゴーニュと同じだったらむしろおかしい。新世界ワインにはブルゴーニュとは別の価値を認めるべきでしょう。このピノは舌に乗った時、滑らかさを感じます。それに味に深みがあるので口の中にある時も、舌や上口蓋を通る時も、また飲み込んだ後の味まで、何度も楽しめます。
酒豪先生:昔、アーモンド・グリコは「一粒で二度おいしい」というCMを使って大ヒットしましたが、このピノは一口で三度おいしい、というわけですか。
南 海 子:アロマも入れたら、四度ですよ。

洋画紳士:
栓のことですが、コノスルはスクリューキャップの採用も早かったようですが、ソーヴィニヨン・ブランはスクリューキャップ、ピノノワールは天然コルク栓です。
酒豪先生:こういう使い分けは何を基準にしているのかな?
南 海 子:最近は新世界ワインに慣れてきたので、どっちでも気にならなくなってきました。
洋画紳士:思いつきですが、ピノノワールはある程度の保存期間を想定して天然コルクに、ソーヴィニヨン・ブランは一年以内に飲むだろうということで扱いやすいスクリューキャップにしたのではないですか。
南 海 子:たぶんそうでしょうね。

洋画紳士:
ところで、20バレルは20樽限定ということで、ラベルには一本一本ナンバリングが打ってあり、その数を保証しているようです。でも、いま気が付いたことですが、ソーヴィニヨン・ブランは17322、ピノノワールは22851となっています。20樽にしては数が多すぎるようですが。
酒豪先生:ボルドーの樽は225リットルですから、750ml瓶に詰めるなら300本くらいです。300本×20樽=6000本ということになりますが、2万本を越すというのはどういうことでしょうね。
南 海 子:巨大な樽というのがあるのかしら・・・
洋画紳士:一樽で1000本だとしても20樽で2万本・・・・・2万本を越すというのは計算が合わない。それともバレルというのは熟成用のオーク樽のことではなくて、ステンレス・タンクのことを指しているのかもしれない・・・
酒豪先生:ナンバリングの基準が他にあるのかもしれないですね。その問題はさておき、品質でいえば上等ですよ。フランスどころかカリフォルニアでもこの品質だったら二倍以上の金額でないと手に入りませんから、チリ・ワインの実力の証明みたいなワインですね。

■評価(ソーヴィニヨン・ブラン)
南 海 子:4.5
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5

■評価(ピノノワール)
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4

2009年8月10日月曜日

CALERA カレラ・カリフォルニア・シャルドネ 2007 14.4%
















■トピックス:ワインの栓について

酒豪先生:今夜はカリフォルニア・ワインのCALERA カレラ・シャルドネ 2007を飲んでみましょう。
洋画紳士:カリフォルニア・ワインの評価はもう定評の域に達したようですね。
南 海 子::ほんとうにおいしいと思うシャルドネはカリフォルニア産が多いし、それほど値段が高くないのがうれしい。
洋画紳士:そう、3000円前後でいいものが手に入りますから、コスト/パフォーマンスの点でも優れていますね。このワインも飲みやすくておいしい。やや酸味は強めだけど・・・
南 海 子:私もこの味は好きですよ。
酒豪先生:抜栓してしばらくして味に落ち着きがでてきた。初め飲んだ時にはやや暴れ気味だったけれども、だんだんよくなってきた。
南 海 子:「梅の甘味」も出てきたようです。

洋画紳士:いま気がついたのですが、このシャルドネはサンタクララやモンタレーのブドウ園からシャルドネ種のブドウを買い付けして、それらをブレンド(?)して作っているようです。裏のラベルにどこそこのブドウ園のものをどのような比率で使ったかを明記してあります。
カレラ CALERAには特定のブドウ畑から収穫したシャルドネだけを使った商品もありますが、値段が二倍か、それ以上します。ブレンドでもこの品質が保てるのであれば、私は迷わずこれを選びますね。
南 海 子:なるほど、比率を書いています。この味に不満はありませんが、いつかは特定の畑のブドウだけを使ったものも飲んでみたいですね。
酒豪先生:ところで、このカレラ CALERA は栓が独特です。なんと透明ガラス製で、瓶と接する部分には柔らかなシーリング材(パッキング?)が使われていて密封できるようになっています。 今日、栓を抜く時にシールを切り取ったらガラスの塊がポロッと取れたので、瞬間、何が起きたのか分からなかった。瓶が割れたのかと思ってびっくりしましたよ。
※CALERA社ではこのガラス栓を「ヴィノ・シール」と称しているようです。
洋画紳士:このパッキング材はスクリュー方式の蓋の内側に張られている素材に似ています。たぶん同じようなものでしょう。だからスクリューキャップもガラス栓も同じように密封できるわけです。
洋画紳士:昔読んだ本にワインは長期間寝かせておくと、コルクを通して外気との微妙な交流が起こり、熟成が進むというようなことが書いてあったと記憶していますが、もしそれが本当なら密封してしまうと完全に瓶の中での熟成ということになるのでしょうか。
酒豪先生:瓶内熟成の問題は難しいので、今日は栓の話にしましょう(栓も難問ですが)。最近はワインの栓材については新世界ワインや安いワインで新しい方式が採用されています。 もともとはコルクの劣化が原因でワインの味が悪くなる(「ブショネ」というようだ)のを防ぐために人工コルクが採用されたり、コルクの抜栓が面倒でワインが敬遠されていることの対策として簡単に開けられる方法が模索されたりしたのが、新方式が考えられた動機だろうと推察しますがね・・・
南 海 子:私は個人的にはコルクを抜いて飲む方が好きですけど。
酒豪先生:慣れと伝統の問題ですね。新方式が採用されつつあるといっても、主に新世界ワインでの話であって、フランスの名門シャトーは伝統がある分、新しいもの採用には慎重にならざるを得ない。
仮にコルクよりも優れた方法が開発されたとしても、やはり伝統墨守となるでしょう。それはコルク栓を抜くという行為が作法としての「ワイン文化」に組み込まれているために技術的要素だけを優先させるわけにはいかないのです。
南 海 子:ソムリエの手つきを見ていると優雅さを感じます。スクリューキャップではあまり粋ではないですね。
洋画紳士:片や合理的で機能的には優れていても優雅さは失われる。もう一方は伝統に裏打ちされた作法は感じさせても「ブショネ」のリスクは抱えたままです。
南 海 子:変わっていくのでしょうか・・・ガラス栓だとコルク栓の感覚は残したまま、ブショネのリスクは減るのですから、両者のいい点を持ち合わせているようにも思えるのですが。

■評価(5点満点)
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5