2009年12月26日土曜日

Don Cristobal 1492 ドン・クリストバル 1492  Malbec マルベック・2006・15%



■アルゼンチン・ワイン、恐るべし。

洋画紳士:新世界ワインというと、カリフォルニア、チリ、オーストラリアなどが思い浮かびますが、忘れてはいけないのがアルゼンチンです。
かつて、ブエノスアイレスは「南米のパリ」と謳われた美しい都市であり、周辺諸国が政治的トラブル続きだった中で独りエリート国として存在感を発揮していました。
もっとも迎合政策のツケが廻って今世紀の初めには国家が破綻してしまったわけですが、それでも国の底力は侮れないものがあります。
アルゼンチンはワイン生産でも世界第五位という大産地で、しかも質も良く、とりわけマルベックの評価が高いのです。
南 海 子:あまり聞かない品種ですね。
酒豪先生:このブドウはアルゼンチンでは最大の生産量があるようです。土地、とりわけメンドーサ州のテロワールに合っているのでしょう。
マルベックはもともとフランスのワイン産地ではブレンド用に栽培されていたものですが、アルゼンチンでは単一品種で成功したのです。
洋画紳士:H.ジョンソンの『世界のワイン』によれば、18cのボルドーではマルベックが主力品種だったそうで、19c中頃にフィロキセラ禍以前の苗がチリ経由でメンドーサ州に移植されたようです。
洋画紳士:チリとアルゼンチンは地図で見るとアンデス山脈を挟んで隣同士で、ワイン作りでもライバル関係にあるようですね。
南 海 子:競争相手があった方が双方とも成長するでしょう。私たちとしてはチリ vs. アルゼンチンの切磋琢磨が楽しみですね。
洋画紳士:そのとおり。さて、今日試飲するワインはクリストバル Cristbal 1492 というワイナリーのマルベック Malbec 2006年です。
南 海 子:見るからに濃いワインですね。アルコール度数は15%と破格に高いし、味もインパクトがあります。
酒豪先生:「押し」が強いのです。でも馬力だけでなく、質の高さも感じます。
洋画紳士:いかにも滋養がつきそうな重量感じゃありませんか。飲み込んだ後も口の中にワインの成分が残っているような濃さを感じます。いわば余韻が長続きするとでもいうのかな。
南 海 子:フランス・ワインの繊細さとは別の特徴ですね。洋画紳士の好みではありませんか。いいのが見つかってよかったですね。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5

2009年12月8日火曜日

コノスル カルメネール・レゼルバ ConoSur Carmenere Reserva 2007 14%


■カルメネール、再び。
洋画紳士:前々回取上げたばかりなのに、またもやチリ・カルメネールの登場です。
南 海 子:カルメネールは洋画紳士のお気に入りのようですね。
酒豪先生:私もこのセパージュ(ブドウ種)のワインは好きですよ。安い割には重厚感がああるし、飲んだ後の満足度もありますから。
南 海 子:そうですね、値段との相対評価でもいいワインだと思いますが、絶対評価をしても高水準だと思います。
洋画紳士:お二人とも評価が高いですね。1200円台でこれほどおいしいワインというのは特筆ものです。さすがコノスルというところですね。
さて、ヒュー・ジョンソンは『世界のワイン』に、カルメネールは痩せた土地に合うと書いています。これは面白いですね。肥沃な土地で作物がよく育つというのなら理に適っていると思うのですが、痩せた土地とはね・・・
酒豪先生:チリに限らずどこのワイン産地でも、土地が豊か過ぎたり肥料をやりすぎたりするのはマイナスらしいですね。それどころか水が多すぎてもうまくいかないと言われています。
南 海 子:それはどうしてですか。土地が豊かで水をたっぷりやった方がよく育つと思いますが。
洋画紳士:どうやらブドウを「甘やかさない」ためらしい。土地が痩せていて、水分も少なめだと、植物の習性として地中深く根を張ろうとするでしょう。そうなると地層の深い所からミネラルなどの栄養分を吸い上げるようになり、その土地特有の風味が生まれるのではないかと云われています。
酒豪先生:日本でも「永田農法」というのがありますね。トマトなどの栽培で水も肥料も必要最小限しか与えずにその植物が持っている潜在力を最大限に引き出そうというものです。とても甘いトマトができるそうですよ。
南 海 子:いいブドウ園では栽培家たちが丹精してブドウを育てていると聞きますが、それは「甘やかさない」ことと矛盾はしないのですか。
洋画紳士:その土地とブドウの特性を生かし長所を伸ばすのが丹精でしょう。ブドウの房の数量管理や害虫・病気の予防などはきちんとしないといけない。しかし甘やかしてはいい樹になりません。
南 海 子:まるで子供の躾や教育みたい。
酒豪先生:今日のカルメネールは躾がよかったということですね。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4

2009年12月4日金曜日

Vergelegen フィルハーレヘン・カベルネソーヴィニヨン 2005 14.5%





















■南アフリカ・ワイン讃

洋画紳士:これまで南北アメリカ大陸のワインを中心に試飲してきましたが、今回は趣向を変えて、南アフリカ・ワインに挑戦してみましょう。

南 海 子:南アフリカと聞くと一瞬、暑い地域と思ってしまいますが、考えてみたら南に行くほど南極に近くなるわけですから、暑いとは限らないわけですよね。

酒豪先生:そう、北半球に住んでいる人間にとっては南北逆っていうのは分かりにくい。しかも、ケープタウン周辺の南緯は34°くらいですから、これは北緯にすればモロッコのカサブランカとかジブラルタルくらいではないですか。もちろん気候は緯度だけで決まるわけではありませんが、南アフリカの位置(地理的にも歴史的、政治的にも)を見直さなくてはなりませんね。

洋画紳士:南米の人から聞いたのですが、南半球ではクリスマスは夏なので、サンタクロースは水着でサーフィンに乗ってやって来るそうです。

南 海 子:赤い防寒着を着たサンタさんじゃないんだ・・・。

洋画紳士:また「新世界」という言葉で一括りにしてしまいがちですが、南アフリカではワイン生産の歴史が長いので、あまり新世界扱いしてはいけないのかもしれないですね。今回のフィルハーレヘンはオランダ系のワイナリーで、ラベルによると1700年設立となっているので実は300余年の歴史があるようなのです。

南 海 子:南アフリカのどこにブドウ畑があるのですか?

酒豪先生:ケープタウンという岬を基点にしてL字型にブドウ畑が広がっているようです。

洋画紳士:さて、なぜ私がこのフィルハーレヘンというワインを知ったかというと、あるワインショップからのメールが発端でした。そのセールスメールは面白い書き方をしてあって、フィルハーレヘンの2001年ものがワイン評論家のJ. ロビンソン女史から高い評価を得たというのです。2001年ヴィンテージの赤ワインをブラインド・テイストした結果、フランスの名門やカリフォルニアのカルト・ワインを抑えて堂々の一位だったというものでした。ネームヴァリューや値段からは考えられない結果で、もしそれが事実だったらまるで1976年のパリ事件の(形を変えた)再現ではありませんか。

南 海 子:そのテイスティングは彼女一人が鑑定したのでしょうか。

洋画紳士:どうやらそうらしいですね。この点、やや個人の嗜好が強すぎてパリ事件ほどの説得力はないかもしれません。パリ事件では9人の鑑定家は全員がフランス人の大御所たちでしたから、フランス・ワイン界は面目丸潰れになったのです。

今回、私が疑問に思ったのは、そのテイスティングは2001年ヴィンテージの鑑定でしたが、実際に販売されるのは2005年ものだったことです。同じ畑から獲れたブドウであってもヴィンテージが違っていれば評価は別ということになりそうですが、値段が4000円ほどだったので、ひとつ話の種にでも買ってみようと思い、二本注文したのです。

酒豪先生:そのセールスメールはなかなかの高等戦術を使っていますね。2001年ものに関する高名な評論家の鑑定結果を事実として掲載し、それをエサに2005年ものを売るというのは上手だな。

洋画紳士:そうですね。しかし、考えてみたらフランスの名門ワインだってそうじゃありませんか。名門という(あるいは格付け)過去の栄光がずっと続いているかのようなイメージ(「錯覚」とまではいいませんが)を前面に出して強気の商売をしているのですから。消費者も名門のネームヴァリューやブランドには無批判に屈しているように思えます。

南 海 子:ブランド論議はさておき、2005年ものについてはロビンソン女史は何も語っていないのですから、私たちで「鑑定」してみましょう。


酒豪先生:くっきりした香りを感じますね。味に独特の甘さがある。つまり、おいしいということですが。

南 海 子:飲んだ後、口の中に青草の香りが残っています。

酒豪先生:そう、飲んだ後も口の中に味の余韻が続いているという感じ・・・濃いということでしょうね。黒砂糖の味わいがある。このワインの一番いい点は香りの豊かさです。

洋画紳士:コルクに染みたワインの香りはカカオっぽいですね。また口に含むと舌先ではやや酸味を感じました。その後、舌の上を滑っていくような滑らかさがあります。

酒豪先生:ロビンソン女史が一位に選んだ2001年ものはどうだったんでしょうね。並居る超一流ワインより評価が高かったとしたら、この2005年よりも出来がよかったと推測されるのですが・・・

洋画紳士:分かりませんね、飲み比べてみないことには・・・しかし、この2005年もかなりの味で、私は満足ですし、コスト/パフォーマンスもいいほうです。4000円クラスという価格帯でありながら高価なワインと勝負したのですから、これが水準以上なのは間違いないでしょう。

南 海 子:話は変わりますが、私が最近飲んだ南アフリカ・ワインは数百円のテーブルワインでしたが、まあまあ納得のいく味だった事を考え合わせると、南アフリカ産の実力はたいしたものです。これからワイン選びする時のターゲットが広がりました。

■評価

南 海 子:4.5

酒豪先生:4.5

洋画紳士:4.5