2011年2月4日金曜日

番外編・その2 参考図書について  「世界のワイン」、「パリスの審判」

■「世界のワイン」、「パリスの審判」について語る

洋画紳士:今回は番外編の第二回目ということで、私が勉強・参照している書物についてお話しましょう
南 海 子:参考図書は幾つもあると思いますが、これら二冊を選んだ理由はなんですか?
洋画紳士:内容のある本だからです。まず、「世界のワイン」(ガイアブックス刊、ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンスン共著、山本博監修)は私のような初心者から専門家にいたるまで、読み手の力量に応じて読み応えのある本です。副題に「地図で見る図鑑」と書いてある通り、ワイン産地ごとの地図がすばらしい。鮮明で精密です
酒豪先生:地図もいいけれど写真やイラストもきれいですね
洋画紳士:はい、定価は12000円でしたが、少しも迷うことなく買いました。普段は1万円以上の本は図書館で調べたらいいと思っているのですが、この本は座右に置き、折に触れて読んでみたいと思ったのです
南 海 子:たいへんな力の入れようですね
洋画紳士:図版はもちろん、ワインの歴史、醸造過程、各国の産地、主なワイナリの紹介、そして統計データ・・・とこれ一冊でワイン入門ができてしまうんです、しかも本格的にね
酒豪先生:初心者が通読するだけでもひととおりの知識が身に付くし、またある程度ワインを飲んできた人が読むと経験の分だけさらに理解できるでしょう
南 海 子:手に持つだけでもずっしりと重いですが、これは内容の重さかしら・・・ボルドーだけで16ページもあるのですから、詳しいですね
洋画紳士:この本は2008年8月に発行された第6版ですが、第1版は1971年に出版され、以来37年間、世界中で読まれているワイン本の名著なんです。元々は英国人のワイン評論家、ヒュー・ジョンソン氏が書いていたのですが、第5版からはジャンシス・ロビンソン女史が加わり、一層中身が濃くなったようです



南 海 子:では、「パリスの審判」(日経BP社刊、ジョージ・テイバー著、葉山考太郎・山本侑貴子共訳)はどこがお奨めですか
洋画紳士:この本は1976年のいわゆる「パリ事件」を発端として、世界のワイン・パラダイムが書き換わった顛末を描いています
南 海 子:パラダイム?難しそうですね
酒豪先生:1976年5月24日、パリのインター・コンチネンタル・ホテルでカリフォルニア・ワインとフランス・ワインのブラインド試飲会が開かれ、カリフォルニア・ワインが圧勝したという有名な出来事のことですね
洋画紳士:そうです。誰も予想していなかった結果が出てしまい、試飲したフランス人の専門家や主催者(スティーヴン・スパリュア氏)自身も驚きを隠せなかったといいます。
私が強調したいことは、その場に「目撃者」がいたということです
南 海 子:目撃者ですって?・・・その試飲会にはたくさんの人たちが参加していたんでしょう
洋画紳士:そう。しかし、フランスのメディアは招待されていたにも拘らず一社も来なかった。「フランス・ワインの勝ちに決まってるじゃないか。分りきった試飲会に出ている暇はないよ」ということだったのでしょうね。その日、ちょっとした偶然から、アメリカの"TIME誌" パリ特派員、ジョージ・テイバー氏が参加し、取材したことが鍵になったのです
酒豪先生:つまり、彼がその予想外の結果を報道したわけですね
洋画紳士:もし、その場にジャーナリストがいなかったら、結果は表に出たでしょうか?たぶんフランス側は面目を保つために緘口令を敷いて、「これは何かの間違いだ」、「世界一のフランス・ワインがカリフォルニアの無名のワインに負けるはずがないじゃないか」ということになっていたと思うのです。結果が世間に知れたら一種の「国辱」ですから。
ところが "TIME" で報道されたことにより、この出来事は動かしがたい事実として世界に知られるようになったわけです。「パリ事件」とは関係ないのですが、ある講演会でドキュメンタリー映画監督の土本典昭氏が「記録なくして事実なし」と言ったことがありました。記録が事実を定着させるのです
南 海 子:テイバーさんはちゃんと記録し、事実を伝えたんだ
洋画紳士:「パリ事件」の記事がTIMEに載った(文字だけの小さな報道で、1ページの1/3ほどのスペースを使ったコラムでした。曰く "Last week in Paris, at a formal wine tasting organized by Spurrier, the unthinkable happened: California defeated all Gaul." 「先週パリで公式のワイン試飲会が開かれた。それは英国人ワイン商・スパリュア氏によって企画されたものだったが、その会で誰も予想しなかったことが起きたのだ:無名のカリフォルニア・ワインが名門フランス・ワインに勝ったのである」)1976年6月7日号(アジア版)。その時はあまり大きな騒ぎにはならなかったらしい。ところがその後、いくつものアメリカの新聞がその事件を取り上げるようになって、上位入賞したカリフォルニア・ワインは酒屋の店先から姿を消したそうです。何しろたったの6~7ドルで売られていたのですから、安いものですよ
酒豪先生:カリフォルニア・ワインが圧勝したことは、新世界ワイン好きの洋画紳士を勇気付けたのではありませんか
洋画紳士:皮肉を言わないでください。私が問題にしたいのは「価値を誰が判断するのか」ということです。ヒュー・ジョンソン氏ですか?ロバート・パーカー氏?それともワイン・コンクールの審査員でしょうか?ワインという「生もの」で微妙な味わいの酒を評価する時に、誰かの「お墨付き」を鵜呑みにすることの滑稽さを指摘したいのです
南 海 子:そういう傾向は芸術作品についても言えそうですね
酒豪先生:ワインも芸術品に似ていますからね
洋画紳士:その通りです。例えばゴッホの作品は現在は「億」単位で取引きされていますが、生前売れたのは一枚だけでした。たった一人の収集家、たった一人の画商、たった一人の評論家が「あなたの作品はいい。大好きだ」と言ってくれたら、そして絵の具代の足しにしてくれと安値でも買ってあげていたら、ゴッホの人生はあのようにはならなかったと思うのです
南 海 子:励ましていたのは弟のテオだけだったのですからね
酒豪先生:芸術の世界ではそのような例はいくつもあると思います。もともとはっきりした基準のない世界なのですから、どうとでも評価できるわけです。絵画然り、ワイン然り
洋画紳士:私が「パリ事件」に注目しているのは(そして目撃者であるテイバー氏の著作を推す理由は)、はっきりした基準が存在せず、いわば世評や格付け、ブランド化などに振り回されているワインの世界に強烈な一撃を喰わせたことに意味があると思うからなんです。
「パリ事件」以来、カリフォルニアはもちろんのこと、南米やオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ・・・とそれこそ枚挙に遑がないほど新興国のワインがのし上がってきています
酒豪先生:たしかに「堰を切った」という感じですね。「パラダイム・シフト」というに足る現象です。「フランス・ワイン、何するものぞ」と言わんばかりじゃないですか
南 海 子:新世界ワイン好みの洋画紳士には心強い風潮でしょう?
洋画紳士:最近はフランスやイタリアのワインよく飲むようになりましたよ。あまり産地を過大評価しないことにしていますから・・・・ところで次回のワイン会はどうしましょうか?
南 海 子:タイのワインも注目されているようですが・・・
洋画紳士:タイですか?この分だとアジアのワイナリ巡りもしなくてはなりませんね

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