2009年12月26日土曜日

Don Cristobal 1492 ドン・クリストバル 1492  Malbec マルベック・2006・15%



■アルゼンチン・ワイン、恐るべし。

洋画紳士:新世界ワインというと、カリフォルニア、チリ、オーストラリアなどが思い浮かびますが、忘れてはいけないのがアルゼンチンです。
かつて、ブエノスアイレスは「南米のパリ」と謳われた美しい都市であり、周辺諸国が政治的トラブル続きだった中で独りエリート国として存在感を発揮していました。
もっとも迎合政策のツケが廻って今世紀の初めには国家が破綻してしまったわけですが、それでも国の底力は侮れないものがあります。
アルゼンチンはワイン生産でも世界第五位という大産地で、しかも質も良く、とりわけマルベックの評価が高いのです。
南 海 子:あまり聞かない品種ですね。
酒豪先生:このブドウはアルゼンチンでは最大の生産量があるようです。土地、とりわけメンドーサ州のテロワールに合っているのでしょう。
マルベックはもともとフランスのワイン産地ではブレンド用に栽培されていたものですが、アルゼンチンでは単一品種で成功したのです。
洋画紳士:H.ジョンソンの『世界のワイン』によれば、18cのボルドーではマルベックが主力品種だったそうで、19c中頃にフィロキセラ禍以前の苗がチリ経由でメンドーサ州に移植されたようです。
洋画紳士:チリとアルゼンチンは地図で見るとアンデス山脈を挟んで隣同士で、ワイン作りでもライバル関係にあるようですね。
南 海 子:競争相手があった方が双方とも成長するでしょう。私たちとしてはチリ vs. アルゼンチンの切磋琢磨が楽しみですね。
洋画紳士:そのとおり。さて、今日試飲するワインはクリストバル Cristbal 1492 というワイナリーのマルベック Malbec 2006年です。
南 海 子:見るからに濃いワインですね。アルコール度数は15%と破格に高いし、味もインパクトがあります。
酒豪先生:「押し」が強いのです。でも馬力だけでなく、質の高さも感じます。
洋画紳士:いかにも滋養がつきそうな重量感じゃありませんか。飲み込んだ後も口の中にワインの成分が残っているような濃さを感じます。いわば余韻が長続きするとでもいうのかな。
南 海 子:フランス・ワインの繊細さとは別の特徴ですね。洋画紳士の好みではありませんか。いいのが見つかってよかったですね。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5

2009年12月8日火曜日

コノスル カルメネール・レゼルバ ConoSur Carmenere Reserva 2007 14%


■カルメネール、再び。
洋画紳士:前々回取上げたばかりなのに、またもやチリ・カルメネールの登場です。
南 海 子:カルメネールは洋画紳士のお気に入りのようですね。
酒豪先生:私もこのセパージュ(ブドウ種)のワインは好きですよ。安い割には重厚感がああるし、飲んだ後の満足度もありますから。
南 海 子:そうですね、値段との相対評価でもいいワインだと思いますが、絶対評価をしても高水準だと思います。
洋画紳士:お二人とも評価が高いですね。1200円台でこれほどおいしいワインというのは特筆ものです。さすがコノスルというところですね。
さて、ヒュー・ジョンソンは『世界のワイン』に、カルメネールは痩せた土地に合うと書いています。これは面白いですね。肥沃な土地で作物がよく育つというのなら理に適っていると思うのですが、痩せた土地とはね・・・
酒豪先生:チリに限らずどこのワイン産地でも、土地が豊か過ぎたり肥料をやりすぎたりするのはマイナスらしいですね。それどころか水が多すぎてもうまくいかないと言われています。
南 海 子:それはどうしてですか。土地が豊かで水をたっぷりやった方がよく育つと思いますが。
洋画紳士:どうやらブドウを「甘やかさない」ためらしい。土地が痩せていて、水分も少なめだと、植物の習性として地中深く根を張ろうとするでしょう。そうなると地層の深い所からミネラルなどの栄養分を吸い上げるようになり、その土地特有の風味が生まれるのではないかと云われています。
酒豪先生:日本でも「永田農法」というのがありますね。トマトなどの栽培で水も肥料も必要最小限しか与えずにその植物が持っている潜在力を最大限に引き出そうというものです。とても甘いトマトができるそうですよ。
南 海 子:いいブドウ園では栽培家たちが丹精してブドウを育てていると聞きますが、それは「甘やかさない」ことと矛盾はしないのですか。
洋画紳士:その土地とブドウの特性を生かし長所を伸ばすのが丹精でしょう。ブドウの房の数量管理や害虫・病気の予防などはきちんとしないといけない。しかし甘やかしてはいい樹になりません。
南 海 子:まるで子供の躾や教育みたい。
酒豪先生:今日のカルメネールは躾がよかったということですね。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4

2009年12月4日金曜日

Vergelegen フィルハーレヘン・カベルネソーヴィニヨン 2005 14.5%





















■南アフリカ・ワイン讃

洋画紳士:これまで南北アメリカ大陸のワインを中心に試飲してきましたが、今回は趣向を変えて、南アフリカ・ワインに挑戦してみましょう。

南 海 子:南アフリカと聞くと一瞬、暑い地域と思ってしまいますが、考えてみたら南に行くほど南極に近くなるわけですから、暑いとは限らないわけですよね。

酒豪先生:そう、北半球に住んでいる人間にとっては南北逆っていうのは分かりにくい。しかも、ケープタウン周辺の南緯は34°くらいですから、これは北緯にすればモロッコのカサブランカとかジブラルタルくらいではないですか。もちろん気候は緯度だけで決まるわけではありませんが、南アフリカの位置(地理的にも歴史的、政治的にも)を見直さなくてはなりませんね。

洋画紳士:南米の人から聞いたのですが、南半球ではクリスマスは夏なので、サンタクロースは水着でサーフィンに乗ってやって来るそうです。

南 海 子:赤い防寒着を着たサンタさんじゃないんだ・・・。

洋画紳士:また「新世界」という言葉で一括りにしてしまいがちですが、南アフリカではワイン生産の歴史が長いので、あまり新世界扱いしてはいけないのかもしれないですね。今回のフィルハーレヘンはオランダ系のワイナリーで、ラベルによると1700年設立となっているので実は300余年の歴史があるようなのです。

南 海 子:南アフリカのどこにブドウ畑があるのですか?

酒豪先生:ケープタウンという岬を基点にしてL字型にブドウ畑が広がっているようです。

洋画紳士:さて、なぜ私がこのフィルハーレヘンというワインを知ったかというと、あるワインショップからのメールが発端でした。そのセールスメールは面白い書き方をしてあって、フィルハーレヘンの2001年ものがワイン評論家のJ. ロビンソン女史から高い評価を得たというのです。2001年ヴィンテージの赤ワインをブラインド・テイストした結果、フランスの名門やカリフォルニアのカルト・ワインを抑えて堂々の一位だったというものでした。ネームヴァリューや値段からは考えられない結果で、もしそれが事実だったらまるで1976年のパリ事件の(形を変えた)再現ではありませんか。

南 海 子:そのテイスティングは彼女一人が鑑定したのでしょうか。

洋画紳士:どうやらそうらしいですね。この点、やや個人の嗜好が強すぎてパリ事件ほどの説得力はないかもしれません。パリ事件では9人の鑑定家は全員がフランス人の大御所たちでしたから、フランス・ワイン界は面目丸潰れになったのです。

今回、私が疑問に思ったのは、そのテイスティングは2001年ヴィンテージの鑑定でしたが、実際に販売されるのは2005年ものだったことです。同じ畑から獲れたブドウであってもヴィンテージが違っていれば評価は別ということになりそうですが、値段が4000円ほどだったので、ひとつ話の種にでも買ってみようと思い、二本注文したのです。

酒豪先生:そのセールスメールはなかなかの高等戦術を使っていますね。2001年ものに関する高名な評論家の鑑定結果を事実として掲載し、それをエサに2005年ものを売るというのは上手だな。

洋画紳士:そうですね。しかし、考えてみたらフランスの名門ワインだってそうじゃありませんか。名門という(あるいは格付け)過去の栄光がずっと続いているかのようなイメージ(「錯覚」とまではいいませんが)を前面に出して強気の商売をしているのですから。消費者も名門のネームヴァリューやブランドには無批判に屈しているように思えます。

南 海 子:ブランド論議はさておき、2005年ものについてはロビンソン女史は何も語っていないのですから、私たちで「鑑定」してみましょう。


酒豪先生:くっきりした香りを感じますね。味に独特の甘さがある。つまり、おいしいということですが。

南 海 子:飲んだ後、口の中に青草の香りが残っています。

酒豪先生:そう、飲んだ後も口の中に味の余韻が続いているという感じ・・・濃いということでしょうね。黒砂糖の味わいがある。このワインの一番いい点は香りの豊かさです。

洋画紳士:コルクに染みたワインの香りはカカオっぽいですね。また口に含むと舌先ではやや酸味を感じました。その後、舌の上を滑っていくような滑らかさがあります。

酒豪先生:ロビンソン女史が一位に選んだ2001年ものはどうだったんでしょうね。並居る超一流ワインより評価が高かったとしたら、この2005年よりも出来がよかったと推測されるのですが・・・

洋画紳士:分かりませんね、飲み比べてみないことには・・・しかし、この2005年もかなりの味で、私は満足ですし、コスト/パフォーマンスもいいほうです。4000円クラスという価格帯でありながら高価なワインと勝負したのですから、これが水準以上なのは間違いないでしょう。

南 海 子:話は変わりますが、私が最近飲んだ南アフリカ・ワインは数百円のテーブルワインでしたが、まあまあ納得のいく味だった事を考え合わせると、南アフリカ産の実力はたいしたものです。これからワイン選びする時のターゲットが広がりました。

■評価

南 海 子:4.5

酒豪先生:4.5

洋画紳士:4.5

2009年11月26日木曜日

カルメネールとは何ぞや?  三つのチリ・ワインを飲み比べる。

























洋画紳士:今日はチリのカルメネール(Carmenere)を飲んでみましょう。
南 海 子:あまり聞かない名前のブドウですね。フランスでも作っていますか?
酒豪先生:以前はボルドーでも作っていたのですが、1880年代にフィロキセラ禍がフランス中に広まってワイナリーが全滅していまい、以来この品種はほとんど作っていないようです。そういう訳でフランスでは過去の品種ですが、チリへはフィロキセラ禍の前、1850年代に苗木を植えたと聞きました。
南 海 子:そうだったんですか。偶然が、危ないところでこの品種を救ったんですね。
洋画紳士:『世界のワイン』(ガイアブックス刊、ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンスン共著、山本博監修)によると、1990年代にフランスのブドウ栽培の専門家が調査するまで、チリではカルメネールというのはメルロの仲間だと思われていたというのも面白い話です。
南 海 子:ブドウの味や形が似ているのかしら。
洋画紳士:今ではちゃんと区別されて、メルロはメルロ、カルメネールはカルメネールとして栽培されているそうです。さて、今日の三本のチリ・ワインはそれぞれカルメネールから作られたものですが(パープルエンジェルのみ、カルメネール92%、プチヴェルド8%のブレンド)、値段はかなり違っています。
★左からラプラヤ・ブロックセレクション(2004年、13.5%)1350円
★真ん中がラプラヤ・アクセル(2005年、14%)2600円
★右がモンテス・パープルエンジェル(2006年、14.5%)5800円ですので、つまり倍々の値付けです。
酒豪先生:そうでしたか、値段を聞くまでそれほどの価格差があるとは思わなかったな。
南 海 子:まず、一番安いブロックセレクションでもかなりおいしいと思いました。完成度が高いですね。
酒豪先生:私もそう思います。1300円台なら大発見ですね。もし2000円台だといわれても納得できる味です。この品種は文字通りチリのテロワールに合っていたのでしょうね。
洋画紳士:では、アクセルはどうでしょうか、ワイナリは同じラプラヤですが・・・
酒豪先生:舌に乗った時のなめらかさはさすがにいいと感じました。でも値段が二倍もするのなら、ブロックセレクションを二本買います。
洋画紳士:同感です。アクセルが悪いというのではなく、ブロックセレクションの方がコスト/パフォーマンスが高いということでしょう。
南 海 子:このパープルエンジェルは瓶が大きくて重い。味も重量級で、複雑な要素で構成されているようです。
酒豪先生:高いだけのことはあります。ビロードみたいな舌触りで、ザラザラ感はまるでない。軽いシブミも味を複雑にしています。
洋画紳士:グラスにつく縦縞が目立ちます。筋がはっきり見えるほどですから。
南 海 子:喉を通った後でも口の中に味が残っていて、別格という感じ。大きくて重い瓶は、この重い味のワインを入れておくのに必要な要件だったのですね・・・私の印象を喩えて言うと「雨上がりの草原の香り」というところです。
洋画紳士:ソムリエ試験のようですが・・・
酒豪先生:これは記憶なので正確ではないかもしれませんが、以前飲んだオーパス・ワンの色に近いと思いませんか。総合点でもカリフォルニア・ワインの傑作と太刀打できる水準です。
洋画紳士:さっきの『世界のワイン』によると「カルメネールは他のボルドー種とブレンドするとき、その個性を最大限に発揮する」と書いてありますが、このワインもプチ・ヴェルドとブレンドしたものです。
南 海 子:セオリー通りだったわけですね。チリ・ワインの傑作を飲むことができて今日は大満足です。
◎追記:パープル・エンジェルは、2010年春からJAL(日本航空)国際線ファーストクラスで提供されるようになるそうです。

2009年9月24日木曜日

Strata "ストラータ" カリフォルニア・ナパヴァレー、メルロー 2002年 14.6%




■糖度とハイテクについて
洋画紳士:先日、銀座の写真ギャラリーで開催されていた作品展を見に行ってきたのですが、その時、近くにワインショップがあることに気が付いたので店内を見てきました。店員さんが、このカリフォルニア・ワインはいですよと勧めてくれたので、買ってみました。
酒豪先生: 「ストラータ」というのはイタリア語ですか?イタリア系の人が経営しているワイナリーなのかな。
洋画紳士:"Strata" という単語の響きから、ぼくもそう感じました。昔見た映画に『道』というのがあって、フェリーニの初期の作品ですが、原題が "La Strada" というのです。綴りも似ているし、カタカナで書けば濁音になるかどうかの差ですから、勘違いしてしまいました。
このワインの名前 "strata" は「地層」の意味をもつラテン語 "stratus" の複数形です。裏のラベルには、ワイナリーがあるナパヴァレーの土地の性質について書いてあります。ブドウ栽培に適した土地を象徴する言葉として「地層」を選んで名付けたのでしょうね。
酒豪先生:なるほど、いいワインを作るためにはいいブドウが必要で、いいブドウができるかどうかは畑で決まるといわれていますが、「地層」とはズバリ来ましたね。
南 海 子:口に含むと、ココアの味がします。カリフォルニア的というより、ボルドー風だと思いました。
酒豪先生:そう、ボルドーのいいワインの系列にある味で、ボルドーワインの持つ優しい甘さの感じがいいですね。
洋画紳士:評価が高いなあ。一本だけじゃなくもっと買っておけばよかった。
南 海 子:おいしいとは思うのですが、少し気になるのはこのワイン独特の甘さと、14.6%というアルコール度数の高さです。
洋画紳士:珍しいくらい高いですね。糖度の高い完熟ブドウを使っている証拠でしょう。
酒豪先生:14.6%は高いですね。カリフォルニアのワイン法では補糖(シャプタリゼーション)は禁止されているようですが、ヨーロッパの多くの国で補糖は合法だし、普通に行われているようです。
南 海 子:砂糖を加えるというのはいくら合法でも何か「作られている」という感じでいい気持ちはしません。
酒豪先生:別にこのワインが補糖によってアルコール度数を高くしていると言ってるわけではないですよ。あくまで一般論ですから・・・そして補糖の目的は甘いワインを作るためではないのです。
※カリフォルニア、オーストラリアなどでは補糖は禁止されているが、フランスでは合法である。
洋画紳士:房の数を厳選して、完熟したブドウからいいワインができるというのは事実でしょうが、現代のワイン製造はそういう正攻法だけではなさそうです。それに、ワインの原料としてのブドウを評価する場合、糖度は要素の一つに過ぎないと思います。数字というのは比較しやすいから便利ではありますが、いつの間にか一人歩きしがちですから、気をつけないと・・・
酒豪先生:補糖は人が手を加える方法としては伝統的なものです。現在では醸造工程だけでなく、ワイン製造の多くのプロセスにハイテクが採り入れられているようです。そのおかげでヴィンテージやテロワールの制約から解き放たれたのでしょう。つまり、醸造技術の向上によってワインの品質がよくなったことは間違いないのですから、私はハイテクに乾杯したいですね。
洋画紳士:ワイナリーごとに製法ノウハウは様々あるはずです。我々としては、これほどおいしいワインが比較的安価で買えるのですから、大いに楽しませていただきましょうよ・・・酒豪先生、もう一杯いかがですか?
■評価
南 海 子:4.5
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4

2009年8月30日日曜日

番外編・その1 「三酔人ワイン問答」の小道具たち


洋画紳士:今回は番外編ということで、このブログの名称の由来とか記録のための小道具を話題にしてみましょう。
南 海 子:どうして 「三酔人ワイン問答」という題にしたんですか?
洋画紳士:この題にそれほどの思い入れがあったわけではないのですが、ちょうど三人で試飲会をしていたから、「三酔人」という言葉はすぐに思いついたんです。それから『三酔人経綸問答』を連想するまでに時間はかかりませんでした。
南 海 子:「経綸」(けいりん)というのはあまり聞かない言葉ですね。
豪先生:辞書で調べてみたら「国を治めととのえること。また、その方策」と書いてあります(新辞林・三省堂)。
洋画紳士:そう、あまり使わない言葉ですね。でも「経綸問答」を「ワイン問答」に置換えるとタイトルとして納まりがいいことに気が付いて、あまり迷うことなく、この題に決めたのです。
酒豪先生:『三酔人経綸問答』(中江兆民著、桑原武夫・島田虔次訳、岩波文庫・青版110-1)には原文と現代語訳の両方が載っていますが、原文は難しいですね。『三酔人経綸問答』の初版は明治20年(1887年)に東京集成社から出版されたと解説には書いてありますが、この120余年の間に当時の日本語がすっかり外国語になったかのようで、読めなくなったわけですね。
洋画紳士:そう、読みづらいですね。私も訳文の方を読んだのですが、洋学紳士が現代(19C)欧米諸国の繁栄を評して「自由の大義こそ、この(国家という)大建築の基礎をなすものだ」と述べ、欧米列強の歴史や文化を分析した後でこんな喩えを持ち出しています;「人間社会のあらゆる事業は、たとえて言えば、酒のようなもの、自由は酵母のようなものです。ブドウ酒でもビールでも、材料がいかによくても、もし酵母というものがなければ、材料はみな桶の底に沈殿して、アルコールを醸し出させようとしてもダメです。専制国の事物はみな酵母のない酒です。みな桶の底の沈殿物です。」(岩波文庫版・25p)
南 海 子:ちょうどワインの発酵にたとえて社会を語っているわけですね。
酒豪先生:中江兆民は一つの比喩として使っただけでしょうが、現代のワイン醸造においてはブドウに偶然くっついていた酵母が自然発酵してできるというような素朴なものではない。そのブドウ種や気候、風土に最適な酵母をクローンで増やしてステンレス製発酵槽に投入しているのです。
洋画紳士:兆民の言う「自由という酵母」は、ワイン醸造においてはクローン酵母になって地域性を薄めつつあり、また社会における自由は、国家の礎だったものが勝手気ままにまで成り下がったというわけですね。
南 海 子:あ、洋画紳士お得意のアナロジーですか。
洋画紳士:たまたま思いついただけですよ。


洋画紳士:会話の記録にはICレコーダーを使っていますが、ごくベーシックなもの(オリンパス、VN-3200)です。
南 海 子:カセットよりもずっと小さくて、使いやすいですね。
洋画紳士:ICレコーダーはカセットとは比較できないくらい長時間録音ができます。
酒豪先生:電源は充電式ですか?
洋画紳士:いえ、単四アルカリを二本使います。これはどこでも入手できるので充電式リチウムよりも便利だと思います。でも、この機種は音声データをパソコンで管理することができないので、もう型が古いですね。
南 海 子:べつにパソコンに入らなくても音声メモだけで十分じゃないですか。
洋画紳士:それは考え方ですね。使い方によっては音声データをパソコンで管理した方が便利な場合もあるでしょう。事実、この手の旧式レコーダーは生産しないようです。
酒豪先生:ところで飲んでいる時にノートにメモを取るのは煩わしくないですか。
洋画紳士:いえ、なんでもないですね。むしろワインの印象を語る言葉にピンときた時に書き留めておいた方が後でまとめやすいことに気が付きました。
南 海 子:録音を全部聞き直すことはない?
洋画紳士:ほとんどないですね。ICレコーダーは記憶がはっきりしない時のための確認用です。メモはボールペンで走り書きしますから、大した道具は必要ない。
酒豪先生:必要なものは、いいワインと味の分かる人間だけ、というわけですね。

コノスル 20バレル(ピノノワール 14%、ソーヴィニヨン・ブラン 13.5%)2007




洋画紳士:チリのハイ・コスト/パフォーマンス・ワインの代表格CONO SUR(コノスル)は、商品ラインアップをグレード別に3つに分けている(有機栽培を入れると4つ)。最上級には"OCIO" があるようですが、これは入荷数が少なすぎて私はまだ見たこともないので、普通に買える商品で一番上の20バレルを飲んでみましょう。20バレル・シリーズには他にもシャルドネ、メルロー、カベルネソーヴィニヨンがありますが、一度には飲めないので、差当たりピノノワール、ソーヴィニヨン・ブランから始めます。
酒豪先生:分かりました。メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどはボルドー系との比較ということで後日、対決させてみてもいいですね。
南 海 子:私はこのソーヴィニヨン・ブランは香りもいいし、口に含むと草原の香りがして、好きな味です。
洋画紳士:白というとシャルドネばかりがスター扱いされるけど、シャルドネがいつも最高というわけではないし、ここまで高品質で味がいいと「隅には置けない」という感じです。
酒豪先生:そう、舌先にフルーツ味を感じますね。おいしい。チリ・ワインはコノスルに限らず、本当にコスト/パフォーマンスが高い。もし、ブランド作りがうまくいけばカリフォルニアのスター・ワイナリーみたいになるかもしれない。
南 海 子:そうなる前にまとめ買いしておきましょうか。
洋画紳士:さて、20バレル・シリーズはその名の通り、毎年そのブドウ種(セパージュ)ごとに20樽しか作らないという限定版なのです。
南 海 子:20バレルのラベルはごくシンプルな白地ですが、他のグレードのラベルには、どういうわけか自転車の絵が描かれているでしょう。あれには何か意味があるの?
洋画紳士:ぼくが想像するに、この会社は環境問題に意識的になっているようです。カーボンニュートラルといって、二酸化炭素の排出と吸収とが同等になるよう工夫していて、たとえば従業員が畑に出かける時には自転車を使っているようです。だから、環境を意識した活動の象徴としてラベルに自転車を描いたのだと思います。
南 海 子:そうですか。じゃあ、コノスルというのは自転車のこと?
洋画紳士:いえ、自転車はビシクレータ(bicicleta)。社名の由来は、南米大陸が円錐形(CONO)をしていて、そこの南側(SUR)に会社があるためにコノスルとしたようです。
南 海 子:ヴィクトル・エリセ監督の作品に「エル・スール」というのがありましたが・・
洋画紳士:"El Sur" というのは「南」という意味です。
南 海 子:「エル・スール」では大した事件が起きるわけではないけれど(父親の死は示唆されるだけで、画面上に表現されるわけではない)少女の感性を映像化したような不思議な映画でした。
洋画紳士:地味ながら粘り強い演出でしたね。ああいう作家性の強い映画は貴重です。
酒豪先生:さて、洋画先生らしい薀蓄は結構ですが、言葉についての前置きが長すぎますね。スペイン語の勉強会ではないので、しっかりと本題の試飲をしましょう。ぼくはこのピノノワールもいいと思う。
南 海 子:洋画紳士はいつも脱線ばっかり。映画だとか音楽、絵画と連想の範囲が広すぎますよ。試飲会なんですからちゃんとワインのことを話してください。
話をワインに戻せば、このワインはブドウ種がブルゴーニュのセパージュと違っているのか、色も濃い目だし、風味も違いますね。でも、ピノノワールにしては「梅の甘味」を強く感じます。いいワインですね。
洋画紳士:同じ品種でも気候風土が異なれば当然、できるブドウも変わってくるはずで、チリでブルゴーニュと同じだったらむしろおかしい。新世界ワインにはブルゴーニュとは別の価値を認めるべきでしょう。このピノは舌に乗った時、滑らかさを感じます。それに味に深みがあるので口の中にある時も、舌や上口蓋を通る時も、また飲み込んだ後の味まで、何度も楽しめます。
酒豪先生:昔、アーモンド・グリコは「一粒で二度おいしい」というCMを使って大ヒットしましたが、このピノは一口で三度おいしい、というわけですか。
南 海 子:アロマも入れたら、四度ですよ。

洋画紳士:
栓のことですが、コノスルはスクリューキャップの採用も早かったようですが、ソーヴィニヨン・ブランはスクリューキャップ、ピノノワールは天然コルク栓です。
酒豪先生:こういう使い分けは何を基準にしているのかな?
南 海 子:最近は新世界ワインに慣れてきたので、どっちでも気にならなくなってきました。
洋画紳士:思いつきですが、ピノノワールはある程度の保存期間を想定して天然コルクに、ソーヴィニヨン・ブランは一年以内に飲むだろうということで扱いやすいスクリューキャップにしたのではないですか。
南 海 子:たぶんそうでしょうね。

洋画紳士:
ところで、20バレルは20樽限定ということで、ラベルには一本一本ナンバリングが打ってあり、その数を保証しているようです。でも、いま気が付いたことですが、ソーヴィニヨン・ブランは17322、ピノノワールは22851となっています。20樽にしては数が多すぎるようですが。
酒豪先生:ボルドーの樽は225リットルですから、750ml瓶に詰めるなら300本くらいです。300本×20樽=6000本ということになりますが、2万本を越すというのはどういうことでしょうね。
南 海 子:巨大な樽というのがあるのかしら・・・
洋画紳士:一樽で1000本だとしても20樽で2万本・・・・・2万本を越すというのは計算が合わない。それともバレルというのは熟成用のオーク樽のことではなくて、ステンレス・タンクのことを指しているのかもしれない・・・
酒豪先生:ナンバリングの基準が他にあるのかもしれないですね。その問題はさておき、品質でいえば上等ですよ。フランスどころかカリフォルニアでもこの品質だったら二倍以上の金額でないと手に入りませんから、チリ・ワインの実力の証明みたいなワインですね。

■評価(ソーヴィニヨン・ブラン)
南 海 子:4.5
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5

■評価(ピノノワール)
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4

2009年8月10日月曜日

CALERA カレラ・カリフォルニア・シャルドネ 2007 14.4%
















■トピックス:ワインの栓について

酒豪先生:今夜はカリフォルニア・ワインのCALERA カレラ・シャルドネ 2007を飲んでみましょう。
洋画紳士:カリフォルニア・ワインの評価はもう定評の域に達したようですね。
南 海 子::ほんとうにおいしいと思うシャルドネはカリフォルニア産が多いし、それほど値段が高くないのがうれしい。
洋画紳士:そう、3000円前後でいいものが手に入りますから、コスト/パフォーマンスの点でも優れていますね。このワインも飲みやすくておいしい。やや酸味は強めだけど・・・
南 海 子:私もこの味は好きですよ。
酒豪先生:抜栓してしばらくして味に落ち着きがでてきた。初め飲んだ時にはやや暴れ気味だったけれども、だんだんよくなってきた。
南 海 子:「梅の甘味」も出てきたようです。

洋画紳士:いま気がついたのですが、このシャルドネはサンタクララやモンタレーのブドウ園からシャルドネ種のブドウを買い付けして、それらをブレンド(?)して作っているようです。裏のラベルにどこそこのブドウ園のものをどのような比率で使ったかを明記してあります。
カレラ CALERAには特定のブドウ畑から収穫したシャルドネだけを使った商品もありますが、値段が二倍か、それ以上します。ブレンドでもこの品質が保てるのであれば、私は迷わずこれを選びますね。
南 海 子:なるほど、比率を書いています。この味に不満はありませんが、いつかは特定の畑のブドウだけを使ったものも飲んでみたいですね。
酒豪先生:ところで、このカレラ CALERA は栓が独特です。なんと透明ガラス製で、瓶と接する部分には柔らかなシーリング材(パッキング?)が使われていて密封できるようになっています。 今日、栓を抜く時にシールを切り取ったらガラスの塊がポロッと取れたので、瞬間、何が起きたのか分からなかった。瓶が割れたのかと思ってびっくりしましたよ。
※CALERA社ではこのガラス栓を「ヴィノ・シール」と称しているようです。
洋画紳士:このパッキング材はスクリュー方式の蓋の内側に張られている素材に似ています。たぶん同じようなものでしょう。だからスクリューキャップもガラス栓も同じように密封できるわけです。
洋画紳士:昔読んだ本にワインは長期間寝かせておくと、コルクを通して外気との微妙な交流が起こり、熟成が進むというようなことが書いてあったと記憶していますが、もしそれが本当なら密封してしまうと完全に瓶の中での熟成ということになるのでしょうか。
酒豪先生:瓶内熟成の問題は難しいので、今日は栓の話にしましょう(栓も難問ですが)。最近はワインの栓材については新世界ワインや安いワインで新しい方式が採用されています。 もともとはコルクの劣化が原因でワインの味が悪くなる(「ブショネ」というようだ)のを防ぐために人工コルクが採用されたり、コルクの抜栓が面倒でワインが敬遠されていることの対策として簡単に開けられる方法が模索されたりしたのが、新方式が考えられた動機だろうと推察しますがね・・・
南 海 子:私は個人的にはコルクを抜いて飲む方が好きですけど。
酒豪先生:慣れと伝統の問題ですね。新方式が採用されつつあるといっても、主に新世界ワインでの話であって、フランスの名門シャトーは伝統がある分、新しいもの採用には慎重にならざるを得ない。
仮にコルクよりも優れた方法が開発されたとしても、やはり伝統墨守となるでしょう。それはコルク栓を抜くという行為が作法としての「ワイン文化」に組み込まれているために技術的要素だけを優先させるわけにはいかないのです。
南 海 子:ソムリエの手つきを見ていると優雅さを感じます。スクリューキャップではあまり粋ではないですね。
洋画紳士:片や合理的で機能的には優れていても優雅さは失われる。もう一方は伝統に裏打ちされた作法は感じさせても「ブショネ」のリスクは抱えたままです。
南 海 子:変わっていくのでしょうか・・・ガラス栓だとコルク栓の感覚は残したまま、ブショネのリスクは減るのですから、両者のいい点を持ち合わせているようにも思えるのですが。

■評価(5点満点)
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5

2009年7月21日火曜日

バローロ Baccanera Langhe 2004 




■アルコール度数について

洋画紳士:三酔人ワイン問答の第一回目は、
イタリア・バローロ "lo Zoccolaio" 2004 Baccanera Langheです。
酒豪先生:バロ-ロの上等のものは、イタリアのロマネコンティと言われるくらいだから、楽しみですね。
南 海 子:香りの第一印象を言えばバターの甘い香りね。焼きたてのパンにバターをつけた時、融け出したバターから出る香り・・・それにバニラの匂いもする。この香りもワインの楽しみですよ。
洋画紳士:さすが、香りに強い南海子さんですね。
酒豪先生:ブドウはネビョーロですね。たしかにフランスワインとは味が違っている。舌に乗った時、滑らかな感じがする。
洋画紳士:こういう味をフルボディと呼んでいいんですか?
酒豪先生:シラーから作った重たいワインをフルボディと言うのなら、これもそうかもしれない。ともかく手抜きをせずにキチンと作ったらこうなるというお手本のようなワインらしいワインですよ。

洋画紳士:アルコール度数は14%と表示してありますね。
南 海 子:普通は12%ですよ。これは14%もあるんだ・・・
酒豪先生:飲んだ時の印象がとても滑らかだったので、そんなに強いとは思わなかった。だいたい12%を標準として、13%なら強い、11%なら弱いというらしい。
南 海 子:昔、カリフォルニア・ワインが今みたいに高い評価を得ていなかった頃には、10%くらいのジュース感覚で飲めるようなテーブルワインも作っていたらしいですね。
洋画紳士:今はカリフォルニア・ワインは高く売れるようになったので、安いワインの割合は少なくなっているんじゃないかな。ところで、味とアルコール度数は関係あるんですか?
酒豪先生:あるといえば、あるでしょう。いいワインを作ろうと思えばいいブドウが必要なわけで、高級ワインをつくっているワイナリーの人たちは房を選んで、丹精していいブドウを育て上げる。太陽をたっぷり浴びたブドウは一般に糖度が高いから強いアルコール度数のワインが出来上がるというわけさ。

洋画紳士:このワインは格付けではD.O.C.となっています。
酒豪先生:イタリアワインではD.O.C.であれ、最上級のD.O.C.Gであれ、格付けはあまりアテにならないんです。規格など気にしないでひたすらいいワインを目指して仕事をしているワイナリーはいくつもあります。
南 海 子:これはいいワインですよ、格付けに関係なく。
洋画紳士:ぼくもそう思います。
酒豪先生:同感ですね。

■評価(5点満点)
酒豪先生:4
南 海 子:4
洋画紳士:4

2009年5月17日日曜日

新しいブログ「三酔人ワイン問答」誕生予告

2009年初夏、新しいブログ『三酔人ワイン問答」が始まる予定です。