洋画紳士:ぼくはこれまで「パーカーポイント」なるものをそれ程高く評価してきませんでしたが、この二本のワインを飲み比べてみて、改めてRobert Parker Jr.という男の鑑定眼(というのか味覚の鋭さ)に驚かされました。
酒豪先生:おや、宗旨替えですか。
南 海 子:洋画紳士お得意の豹変ですね、いったいどうしたんですか。
洋画紳士:このMORANDEというのはチリ・カサブランカヴァレーの優秀なワイナリの一つですが、そこの中級クラスのシャルドネがPP(パーカーポイント)90点だったというのでデパートの売場の人に勧められて一本買ってみたのです(写真・右、2008年)。味の濃さが僕好みだったこともありましたが、これは発見だと思ったものでした。
南 海 子:そうでしたね、舌に重さを感じるくらいの濃厚さが印象的でした。三人とも高く評価したのではなかったかしら。
酒豪先生:もうだいぶ前のことだからそうはっきりと覚えているわけではありませんが、いいワインを見つけてきたなと思いました。
洋画紳士:円熟してこってりしているというだけでなく、シャルドネの一種の到達点に近いとさえ思ったものでした。
酒豪先生:まあ、「一つの」高みには達しているかもしれませんが、シャルドネ種といっても地域ごとに気候風土が違うのですから、ブドウの出来からして変わってくるのです。チリのシャルドネとしては悪くはありませんが、ブルゴーニュの上等のワインと比べるとまだまだ、それ程高く評価するわけにはいきませんね。
南 海 子:でもそれは値段が違うから比較の対象にはならないような気がしますけど・・・
酒豪先生:評価は値段抜きで絶対評価すべき場合と、価格帯ごとのBestBuy的な評価があると思いますね。洋画紳士があまり誉めるのでつい絶対評価で言ってしましました。
ちょっと脱線してしまいそうですが、ここ数年、特にフランスの高級ワインが値上がりしています。いくつか理由はあるでしょうが、アジアのこれまではワイン消費国でなかった国々での需要急増が大きいと思います。
南 海 子:高級ワインにだんだん手が届かなくなってきましたね。でも新世界ワインの無名でも優秀なワイナリの製品を見つける楽しみが出てきました。
洋画紳士:そのとおり、フランスの高級ワインの値上がりには僕も業腹ですが、それはそれとして、MORANDEのシャルドネには価格を問わない絶対値としてのクオリティを感じたものですから、こうして二本を並べてみたのです。
酒豪先生:ずいぶん思い入れが強いようですが・・・
洋画紳士:つまりですね、僕が受けた衝撃というのは二重のものだったんです。MORANDEの品質の高さが一つ。もう一つはチリの一ワイナリに過ぎない醸造所の、いわば無名のシャルドネを高く評価したロバート・パーカーという男の眼力に驚いたことが相乗しているのです。
そして、もう一つ驚いたのは、同じワイナリの2011年もののシャルドネ(写真左)を飲んでみて、2008年ものと比べると何かがないことに気がつきました。何かがといってもそれは品質とかで語られるものではないでしょうね。2011年ものも優れています。しかし、somethingがない。そして2011年ものにはパーカーポイントはありません。パーカーは・・・
酒豪先生:その違いに気が付いて、2011年ものにはポイントをつけなかった。
洋画紳士:僕は、一種、恐れ入ったという気がしたものです。
南 海 子:洋画紳士は自信をつけすぎではありませんか、それではあなたとロバート・パーカーとが同レベルの鑑定家であるかのように聞こえてしまいます。
洋画紳士:いや、べつに自惚れているわけではありません。図書館にあった大部の著作「ボルドー・ワイン」を見ただけで、研究の絶対量に感服しました。持って生まれた味覚だけではなく、膨大な学識があり、しかもワイン造りの現場をくまなく調査しているようなのです。彼の評価がワインの相場を左右することはおかしいと思っていますが、それは別に彼の責任ではないでしょう。100点満点の評価システムが市場で安易に受け入れられたことに問題があるので、鑑定家としてのパーカー氏に非はありませんよ。
酒豪先生:それはそうです。数値でワインを評価するというのはとても分かりやすい方法です。しかし、数字はワインの何を語っているのでしょうか。
洋画紳士:それはパーカー氏の味覚を基準にした相対値でしょう。
酒豪先生:しかし、その数字信仰は、一人の人間(いかに優れていたとしても)の味覚でワインを語り尽くせるものではないという事実の前で、自己撞着しませんか。
南 海 子:洋画紳士はこの二本のワインの評価をきっかけにPP(パーカーポイント)信者になったんですか。
洋画紳士:いえ、そうでもありません。彼の実力はたいへんなものでしょうが、自分の評価は自分のものですから。いくら僕がワインについて未熟でも、味覚は本来個人個人のものです。特に子供時代の環境で作られるような気がします。そうしたバックグラウンドなしに、大御所の評価を鵜呑みにして大金を払う気はしませんね。
南 海 子:その日の気分やお天気によっても味覚は変化しますから、鑑定家の意見はほどほどにということかしら。
酒豪先生:パーカーポイントも酒の肴ですよ。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5
2013年10月21日月曜日
2011年4月29日金曜日
CROWDED HOUR クラウデッド・アワー 南オーストラリア・シャルドネ 2009 14%
■三酔人ワイン問答で初めて取り上げるオーストラリア・ワイン
洋画紳士:今日はオーストラリア・ワインの白を飲んでみましょう。実を言うと我々はオーストラリア・ワインをよく飲んでいるのに、これまでこのブログでは一度も取り上げたことがありませんでした。
南 海 子:そうでしたか・・・何かあったような気がするのですが、初めてなのかもしれませんね。
酒豪先生:オーストラリアは主に南部(つまり南極に向って緯度の高い)地域でブドウが栽培されているようですが、いまや世界のワイン界での大勢力になってきました。
洋画紳士:このワイナリは南オーストラリアの都市、アデレードに近い、マクラーレン・ヴェールにあるようです。
酒豪先生:LOOMWINE というのは何かトボケた、冗談のような会社名ですね。辞書を引くと"loom" には「はた織機」という意味と、「ぼんやり現れる」とか「ぼおっと見える」という意味があります。
南 海 子:どちらの意味から取ったのでしょうね。元々は繊維関係の機械を作っていた人がワイナリを起こしたのか、それともワインに酔って周りがぼおっと見えてしまうということでしょうか。
酒豪先生:さて、どうでしょうね。オーストラリアでは何か別の意味があるのかもしれないし、いずれにしても「シャトー○○○○」というフランス風の名前よりはずっといい。オーストラリア人のユーモア感覚だと思いますよ。会社名だけでなく "crowded hour" というネーミングも人を喰っていませんか。「多忙な時間」だなんていうワインの名前はこれまでになかった発想です。
南 海 子:ラベルのデザインもモダン派ですね。泡をイメージしているのかしら。
洋画紳士:さてオーストラリアのワイナリは南部に集中しているのですが、LOOMWINEのあるマクラーレン・ヴェールというところは主産地の一つです。『世界のワイン』によると、ジョン・レイネルという人が1838年にマクラーレン・ヴェールに最初にブドウの樹を植えたと書かれています。
酒豪先生:日本では江戸時代の終わりの方ですね。
洋画紳士:その地域では樹齢百年を越すブドウ樹も珍しくないそうです・・・・では、飲んでみましょう。
酒豪先生:いいじゃない。シャルドネの特徴をうまく引き出していますね。酸味と甘さのバランスがうまい。温度も冷やして飲む方が喉越しが爽やかです。
南 海 子:私もおいしいと思います。好きな味ですし、コスト・パフォーマンスが高い。1000円ワインとしては上等です。
洋画紳士:そう、この品質でこの値段だったら日常酒として文句ありません。
酒豪先生:オーストラリア・ワインは欧米はもちろん、日本でも輸入ワインの上位に入っていますが、このクオリティがあれば南米のワインとの競争にも勝てそうですね。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4
2011年4月28日木曜日
Don Cristobal 1492 ドン・クリストバル・シラーズ 2008 14%
■アルゼンチンのシラーズを飲んでみる
洋画紳士:2009年12月26日に同じワイナリのマルベックを試飲していますが、今日はブドウ種がシラーズです。
南 海 子:その時も「アルゼンチン・ワイン、恐るべし」ということで、その実力に驚いたものでしたね。洋画紳士好みの濃い味だったことを覚えています。
酒豪先生:マルベックは度数が15%でしたが、このシラーズは14%です。まあ、飲んだ印象では15でも14でも判別はできませんが、こちらもやはり「濃い」感じはしました。
洋画紳士:単に濃いだけでなく、味わいの深みという点でも評価できますね。ぼく好みです。
南 海 子:やっぱりそうでしょう。飲んだ瞬間に洋画紳士が好む味だなと分りました。
酒豪先生:グラスに注いだ時の泡立ちもきれいですし、グラスに付く「筋」もくっきりしています。
洋画紳士:いつも通りですが、『世界のワイン』から引用させてもらいますと、シラー種の原産地はフランス・ローヌ渓谷北部だそうですね。また、「オーストラリアではシラーズと呼ばれ、フランスとは全く異なった味わいとなる」と書かれています。ブドウが農産物である限り、同じ苗から育ててもフランスとオーストラリア、アルゼンチンとでは収穫されるブドウの性質が違ってくるのは理の当然でしょう。
酒豪先生:ワインがグラスと接する縁の部分が紫色です。赤ワインだから当然といえばその通りですが、紫とはっきり分るのも珍しいんじゃないですか。ボルドーなんかだともっと赤茶色系の色が多いのですが・・・・
洋画紳士:色調は味の象徴なのでしょうね。2000円ほどのワインとしては上出来だと思います。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5
洋画紳士:2009年12月26日に同じワイナリのマルベックを試飲していますが、今日はブドウ種がシラーズです。
南 海 子:その時も「アルゼンチン・ワイン、恐るべし」ということで、その実力に驚いたものでしたね。洋画紳士好みの濃い味だったことを覚えています。
酒豪先生:マルベックは度数が15%でしたが、このシラーズは14%です。まあ、飲んだ印象では15でも14でも判別はできませんが、こちらもやはり「濃い」感じはしました。
洋画紳士:単に濃いだけでなく、味わいの深みという点でも評価できますね。ぼく好みです。
南 海 子:やっぱりそうでしょう。飲んだ瞬間に洋画紳士が好む味だなと分りました。
酒豪先生:グラスに注いだ時の泡立ちもきれいですし、グラスに付く「筋」もくっきりしています。
洋画紳士:いつも通りですが、『世界のワイン』から引用させてもらいますと、シラー種の原産地はフランス・ローヌ渓谷北部だそうですね。また、「オーストラリアではシラーズと呼ばれ、フランスとは全く異なった味わいとなる」と書かれています。ブドウが農産物である限り、同じ苗から育ててもフランスとオーストラリア、アルゼンチンとでは収穫されるブドウの性質が違ってくるのは理の当然でしょう。
酒豪先生:ワインがグラスと接する縁の部分が紫色です。赤ワインだから当然といえばその通りですが、紫とはっきり分るのも珍しいんじゃないですか。ボルドーなんかだともっと赤茶色系の色が多いのですが・・・・
洋画紳士:色調は味の象徴なのでしょうね。2000円ほどのワインとしては上出来だと思います。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5
2011年3月30日水曜日
fontbories, Camplong, Corbires フォントボリエ(カンプロン・コルビエール)2007 14%
■西部ラングドックの強い赤ワインを飲む
洋画紳士:今回は南仏にある西部ラングドック(コルビエール)のワインです。
南 海 子:この間(1月8日)飲んだ、水鳥の絵の白ワインもラングドックでしたね。
洋画紳士:はい、でもあれは東部ラングドックで、マルセイユ寄りでした。こちらはもっと西にあり、ピレネーに近い地域です。カタカナが並んでいるので分りにくいのですが、「フォントボリエ」というのがこのワインの商標、「カンプロン」が共同醸造所名、「コルビエール」がAC表示です。
酒豪先生:口に含んだ瞬間、「濃い」と分りました。また、香りの良さが印象的。評価しますよ、相当いけるじゃないですか。
南 海 子:これはフランス・ワインといっても、洋画紳士好みの「コクのある」味ですね。濃いといっても嫌味やエグ味はなくて、いいじゃないですか。
洋画紳士:たしかに濃い・・・裏ラベルにはシラー、ムールヴェドル、グルナシュ、カリニャンのブレンドだと書いてあります。いずれもこの地域の代表的なブドウ種のようですね。『世界のワイン』によると、コルビエールの味は「野性味が強く、濃厚で、しばしばタフである」と評されています。
南 海 子:的確な評価ですね。それ以上、言うことはないくらいです。おや、ラベルの右上にワイン・コンテスト金賞受賞のシールが貼ってあります。
酒豪先生:ぼくはこの味はいいと思いますが、それは飲んでみてそう思うのであって、コンテスト受賞歴の「ハク付け」によってではありません。というのは、ワイン・コンテストは世界中でたくさん行われており、一体いくつあるのか分らないほど多いのです。受賞シールは当てにならないことは経験済みです。
洋画紳士:たしかに2009年、パリの農漁業省・コンクールで金賞を取ったということは分りますが、何を基準として誰が選考したのかは判然としませんね。
酒豪先生:文学賞や音楽コンクールなどと同じでしょう。あまりにも乱立してしまったために賞の権威がなくなったのと似ています。
洋画紳士:万事がビジネスやイベントになってしまったわけだ。
南 海 子:一般論としてはその通りですが、このワインに関しては飲んでみて「なるほど、受賞ワインだけのことはある」と頷けます。いい線いってますよ、いくらでしたか?
洋画紳士:1500円未満でした。
酒豪先生:それはお買い得でしたね。このラベルはぼくも覚えておきましょう。
■評価
南 海 子:3.5
酒豪先生:4
洋画紳士:4
2011年2月9日水曜日
PRIMO プリモ Fairvier フェアヴュー 南アフリカ、ピノタージュ 2008 14%
■南アフリカのピノタージュ・ワインを飲む
■評価
洋画紳士:今回は南アフリカのワインです。2009年12月に「フィルハーレヘン」を取り上げたので、南ア・ワインはこれで二度目になります
南 海 子:ピノタージュというブドウ種のワインを飲むのは初めてです
洋画紳士:南アの固有種らしいですね。名前からも分るとおり、ピノノワールとエルミタージュ(フランス南部では Cinsault「サンソー」の名で栽培されている)との掛け合わせで作られた品種のようです。また、ワイナリはフェアヴュー(Fairview)で、ケープタウンの北東にあるパール(Paarl)という内陸部の町にあります。また、プリモ(PRIMO)というのは商品名です
南 海 子:何もかも初めて聞く名前です・・・では先入観なしで飲んでみましょう
酒豪先生:ピノタージュというブドウ種は初めてですが、悪くないですね。グラスの壁に付く「涙」もくっきりしている。濃さの証拠でしょう
洋画紳士:舌先に甘みを感じます。柔らかさも滑らかさも兼ね備えている・・・そしてコクも感じます
南 海 子:洋画紳士好みのコクのようですね
酒豪先生:このワインを一本飲んだだけで即断はできないのですが、やはり南アの固有種だけあってテロワールに合っているのでしょうね。すでに完成度を感じさせるじゃないですか
南 海 子:こういう濃い目のワインはもう少し寝かせて置いた方がいいのかしら。2008年ものを今飲むのは早すぎたかもしれません
酒豪先生:そう、あと数年待てばもっと期待できるかもしれないですね
洋画紳士:ご心配なく、ちゃんと二本買ってありますから
(追記:試飲会の後、撮影するのを忘れてしまい、空き瓶を廃棄してしまいました。写したのは残りの瓶で、もうしばらくセラーで寝かせておきたいと思います)
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5
2011年2月8日火曜日
DOMAINE TOLLOT-BEAUT ドメーヌ・トロ・ボー "BOURGOGNE" シャルドネ 2007・13%
■コート・ドールのシャルドネを飲む
洋画紳士:今日のワインはドメーヌ・トロ・ボーの「ブルゴーニュ・ブラン」です。
南 海 子:ある程度の水準にあるワインで「ブルゴーニュ」をストレートに商品名にするのは珍しいですね
洋画紳士:今日のワインはドメーヌ・トロ・ボーの「ブルゴーニュ・ブラン」です。
南 海 子:ある程度の水準にあるワインで「ブルゴーニュ」をストレートに商品名にするのは珍しいですね
酒豪先生:ラベルに記載されたドメーヌの住所は Chorey-Les-Beaune (Cote-d'Or) となっていますから、コート・ド・ボーヌにありますね。フランス・ワインの名声を背負っているCote-d'Or (黄金の丘)で栽培したブドウを使っているわけです
洋画紳士:地図で見ると、その村は国道N74に沿ってボーヌ市の北、コルトンの丘の少し手前にあります
南 海 子:ボトルのデザインもいかにもブルゴーニュという感じで、どっしりしていますね。高かったですか?
洋画紳士:地図で見ると、その村は国道N74に沿ってボーヌ市の北、コルトンの丘の少し手前にあります
南 海 子:ボトルのデザインもいかにもブルゴーニュという感じで、どっしりしていますね。高かったですか?
洋画紳士:いいえ、3000円未満でしょう。というのは通販で買ったのでそれぞれの値段は分らないんです。白ワインばかり6本セットで一万円というお買い得品の中の一本で、おそらく一番高いものだと思います
南 海 子:ネットで買うと選択肢がぐっと広がりますね
酒豪先生:では、黄金の丘で獲れたシャルドネ、飲んでみましょうか
南 海 子:青リンゴ系の香りがします
酒豪先生:上顎の部分で酸味を感じますね。わりあいあっさりしていて気楽に飲めます
洋画紳士:香りはフルーティでいいのですが、もう少しコクのある方が私の好みですね
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:3.5
南 海 子:ネットで買うと選択肢がぐっと広がりますね
酒豪先生:では、黄金の丘で獲れたシャルドネ、飲んでみましょうか
南 海 子:青リンゴ系の香りがします
酒豪先生:上顎の部分で酸味を感じますね。わりあいあっさりしていて気楽に飲めます
洋画紳士:香りはフルーティでいいのですが、もう少しコクのある方が私の好みですね
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:3.5
2011年2月6日日曜日
LaPlaya ラプラヤ・ヴィオニエ Viognier 2009・13.5%
■ヴィオニエというブドウ種を使った白ワイン
洋画紳士:このところ、ちょっと高級路線に走りすぎて財布が軽くなってしまいました。今日は庶民派に戻って1000円未満のワインを飲んでみましょう。
南 海 子:1000円前後でおいしいワインを見つけられたら収穫ですよ。
酒豪先生:そうですね。何しろ毎日飲んでいるのですから安い方がいい。それにしても、つい一月前にはフランスやカリフォルニアの上等のワインを試飲していたのに、今回、1000円未満というのは落差が大きすぎませんか。
洋画紳士:何とかの沙汰も金次第、といいますから、お金のあるなしで飲めるワインも決まってくるのは仕方がありません。それに一万円のワインを飲んでおいしかったとしても大して有難くはない。うまくて当然だと思います。でも、2000円未満、あるいは1000円前後でおいしければ万歳ものです。というわけで、このワインはチリのラプラヤというワイナリの白。ブドウ種は「ヴィオニエ」Viognier です。
南 海 子:シャルドネやソーヴィニヨンブランみたいにポピュラーなブドウではありませんね。
洋画紳士:私のワインの教科書である「世界のワイン」によると、ローヌ河北部がこのブドウの故郷で、現在では世界中に栽培地が広がっているようです。強い香りが特徴だと書いてあります。
南 海 子:たしかに、香り、風味ともに果実らしさを感じますね。
酒豪先生:ワインが果実酒だということを思い出させてくれる風味です。いつもシャルドネ、セミヨン、ソーヴィニヨンブランなどを飲んで、白ワインを楽しんでいるわけですが、こういう白もいいですね。
南 海 子:安い割には粘りを感じさせるコクがあります。やや甘口なので、飲み続けていると飽きがきそうですが・・・
洋画紳士:ぼくには好ましい味です。テーブルワインとしては上等ですよ。
■評価
南 海 子:3.5
酒豪先生:3.5
洋画紳士:4
2011年2月4日金曜日
番外編・その2 参考図書について 「世界のワイン」、「パリスの審判」
■「世界のワイン」、「パリスの審判」について語る
洋画紳士:今回は番外編の第二回目ということで、私が勉強・参照している書物についてお話しましょう
南 海 子:参考図書は幾つもあると思いますが、これら二冊を選んだ理由はなんですか?
洋画紳士:内容のある本だからです。まず、「世界のワイン」(ガイアブックス刊、ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンスン共著、山本博監修)は私のような初心者から専門家にいたるまで、読み手の力量に応じて読み応えのある本です。副題に「地図で見る図鑑」と書いてある通り、ワイン産地ごとの地図がすばらしい。鮮明で精密です
酒豪先生:地図もいいけれど写真やイラストもきれいですね
洋画紳士:はい、定価は12000円でしたが、少しも迷うことなく買いました。普段は1万円以上の本は図書館で調べたらいいと思っているのですが、この本は座右に置き、折に触れて読んでみたいと思ったのです
南 海 子:たいへんな力の入れようですね
洋画紳士:図版はもちろん、ワインの歴史、醸造過程、各国の産地、主なワイナリの紹介、そして統計データ・・・とこれ一冊でワイン入門ができてしまうんです、しかも本格的にね
酒豪先生:初心者が通読するだけでもひととおりの知識が身に付くし、またある程度ワインを飲んできた人が読むと経験の分だけさらに理解できるでしょう
南 海 子:手に持つだけでもずっしりと重いですが、これは内容の重さかしら・・・ボルドーだけで16ページもあるのですから、詳しいですね
洋画紳士:この本は2008年8月に発行された第6版ですが、第1版は1971年に出版され、以来37年間、世界中で読まれているワイン本の名著なんです。元々は英国人のワイン評論家、ヒュー・ジョンソン氏が書いていたのですが、第5版からはジャンシス・ロビンソン女史が加わり、一層中身が濃くなったようです
南 海 子:では、「パリスの審判」(日経BP社刊、ジョージ・テイバー著、葉山考太郎・山本侑貴子共訳)はどこがお奨めですか
洋画紳士:この本は1976年のいわゆる「パリ事件」を発端として、世界のワイン・パラダイムが書き換わった顛末を描いています
南 海 子:パラダイム?難しそうですね
酒豪先生:1976年5月24日、パリのインター・コンチネンタル・ホテルでカリフォルニア・ワインとフランス・ワインのブラインド試飲会が開かれ、カリフォルニア・ワインが圧勝したという有名な出来事のことですね
洋画紳士:そうです。誰も予想していなかった結果が出てしまい、試飲したフランス人の専門家や主催者(スティーヴン・スパリュア氏)自身も驚きを隠せなかったといいます。
私が強調したいことは、その場に「目撃者」がいたということです
南 海 子:目撃者ですって?・・・その試飲会にはたくさんの人たちが参加していたんでしょう
洋画紳士:そう。しかし、フランスのメディアは招待されていたにも拘らず一社も来なかった。「フランス・ワインの勝ちに決まってるじゃないか。分りきった試飲会に出ている暇はないよ」ということだったのでしょうね。その日、ちょっとした偶然から、アメリカの"TIME誌" パリ特派員、ジョージ・テイバー氏が参加し、取材したことが鍵になったのです
酒豪先生:つまり、彼がその予想外の結果を報道したわけですね
洋画紳士:もし、その場にジャーナリストがいなかったら、結果は表に出たでしょうか?たぶんフランス側は面目を保つために緘口令を敷いて、「これは何かの間違いだ」、「世界一のフランス・ワインがカリフォルニアの無名のワインに負けるはずがないじゃないか」ということになっていたと思うのです。結果が世間に知れたら一種の「国辱」ですから。
洋画紳士:今回は番外編の第二回目ということで、私が勉強・参照している書物についてお話しましょう
南 海 子:参考図書は幾つもあると思いますが、これら二冊を選んだ理由はなんですか?
洋画紳士:内容のある本だからです。まず、「世界のワイン」(ガイアブックス刊、ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンスン共著、山本博監修)は私のような初心者から専門家にいたるまで、読み手の力量に応じて読み応えのある本です。副題に「地図で見る図鑑」と書いてある通り、ワイン産地ごとの地図がすばらしい。鮮明で精密です
酒豪先生:地図もいいけれど写真やイラストもきれいですね
洋画紳士:はい、定価は12000円でしたが、少しも迷うことなく買いました。普段は1万円以上の本は図書館で調べたらいいと思っているのですが、この本は座右に置き、折に触れて読んでみたいと思ったのです
南 海 子:たいへんな力の入れようですね
洋画紳士:図版はもちろん、ワインの歴史、醸造過程、各国の産地、主なワイナリの紹介、そして統計データ・・・とこれ一冊でワイン入門ができてしまうんです、しかも本格的にね
酒豪先生:初心者が通読するだけでもひととおりの知識が身に付くし、またある程度ワインを飲んできた人が読むと経験の分だけさらに理解できるでしょう
南 海 子:手に持つだけでもずっしりと重いですが、これは内容の重さかしら・・・ボルドーだけで16ページもあるのですから、詳しいですね
洋画紳士:この本は2008年8月に発行された第6版ですが、第1版は1971年に出版され、以来37年間、世界中で読まれているワイン本の名著なんです。元々は英国人のワイン評論家、ヒュー・ジョンソン氏が書いていたのですが、第5版からはジャンシス・ロビンソン女史が加わり、一層中身が濃くなったようです
南 海 子:では、「パリスの審判」(日経BP社刊、ジョージ・テイバー著、葉山考太郎・山本侑貴子共訳)はどこがお奨めですか
洋画紳士:この本は1976年のいわゆる「パリ事件」を発端として、世界のワイン・パラダイムが書き換わった顛末を描いています
南 海 子:パラダイム?難しそうですね
酒豪先生:1976年5月24日、パリのインター・コンチネンタル・ホテルでカリフォルニア・ワインとフランス・ワインのブラインド試飲会が開かれ、カリフォルニア・ワインが圧勝したという有名な出来事のことですね
洋画紳士:そうです。誰も予想していなかった結果が出てしまい、試飲したフランス人の専門家や主催者(スティーヴン・スパリュア氏)自身も驚きを隠せなかったといいます。
私が強調したいことは、その場に「目撃者」がいたということです
南 海 子:目撃者ですって?・・・その試飲会にはたくさんの人たちが参加していたんでしょう
洋画紳士:そう。しかし、フランスのメディアは招待されていたにも拘らず一社も来なかった。「フランス・ワインの勝ちに決まってるじゃないか。分りきった試飲会に出ている暇はないよ」ということだったのでしょうね。その日、ちょっとした偶然から、アメリカの"TIME誌" パリ特派員、ジョージ・テイバー氏が参加し、取材したことが鍵になったのです
酒豪先生:つまり、彼がその予想外の結果を報道したわけですね
洋画紳士:もし、その場にジャーナリストがいなかったら、結果は表に出たでしょうか?たぶんフランス側は面目を保つために緘口令を敷いて、「これは何かの間違いだ」、「世界一のフランス・ワインがカリフォルニアの無名のワインに負けるはずがないじゃないか」ということになっていたと思うのです。結果が世間に知れたら一種の「国辱」ですから。
ところが "TIME" で報道されたことにより、この出来事は動かしがたい事実として世界に知られるようになったわけです。「パリ事件」とは関係ないのですが、ある講演会でドキュメンタリー映画監督の土本典昭氏が「記録なくして事実なし」と言ったことがありました。記録が事実を定着させるのです
南 海 子:テイバーさんはちゃんと記録し、事実を伝えたんだ
洋画紳士:「パリ事件」の記事がTIMEに載った(文字だけの小さな報道で、1ページの1/3ほどのスペースを使ったコラムでした。曰く "Last week in Paris, at a formal wine tasting organized by Spurrier, the unthinkable happened: California defeated all Gaul." 「先週パリで公式のワイン試飲会が開かれた。それは英国人ワイン商・スパリュア氏によって企画されたものだったが、その会で誰も予想しなかったことが起きたのだ:無名のカリフォルニア・ワインが名門フランス・ワインに勝ったのである」)1976年6月7日号(アジア版)。その時はあまり大きな騒ぎにはならなかったらしい。ところがその後、いくつものアメリカの新聞がその事件を取り上げるようになって、上位入賞したカリフォルニア・ワインは酒屋の店先から姿を消したそうです。何しろたったの6~7ドルで売られていたのですから、安いものですよ
酒豪先生:カリフォルニア・ワインが圧勝したことは、新世界ワイン好きの洋画紳士を勇気付けたのではありませんか
洋画紳士:皮肉を言わないでください。私が問題にしたいのは「価値を誰が判断するのか」ということです。ヒュー・ジョンソン氏ですか?ロバート・パーカー氏?それともワイン・コンクールの審査員でしょうか?ワインという「生もの」で微妙な味わいの酒を評価する時に、誰かの「お墨付き」を鵜呑みにすることの滑稽さを指摘したいのです
南 海 子:そういう傾向は芸術作品についても言えそうですね
酒豪先生:ワインも芸術品に似ていますからね
洋画紳士:その通りです。例えばゴッホの作品は現在は「億」単位で取引きされていますが、生前売れたのは一枚だけでした。たった一人の収集家、たった一人の画商、たった一人の評論家が「あなたの作品はいい。大好きだ」と言ってくれたら、そして絵の具代の足しにしてくれと安値でも買ってあげていたら、ゴッホの人生はあのようにはならなかったと思うのです
南 海 子:励ましていたのは弟のテオだけだったのですからね
酒豪先生:芸術の世界ではそのような例はいくつもあると思います。もともとはっきりした基準のない世界なのですから、どうとでも評価できるわけです。絵画然り、ワイン然り
洋画紳士:私が「パリ事件」に注目しているのは(そして目撃者であるテイバー氏の著作を推す理由は)、はっきりした基準が存在せず、いわば世評や格付け、ブランド化などに振り回されているワインの世界に強烈な一撃を喰わせたことに意味があると思うからなんです。
「パリ事件」以来、カリフォルニアはもちろんのこと、南米やオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ・・・とそれこそ枚挙に遑がないほど新興国のワインがのし上がってきています
酒豪先生:たしかに「堰を切った」という感じですね。「パラダイム・シフト」というに足る現象です。「フランス・ワイン、何するものぞ」と言わんばかりじゃないですか
南 海 子:新世界ワイン好みの洋画紳士には心強い風潮でしょう?
洋画紳士:最近はフランスやイタリアのワインよく飲むようになりましたよ。あまり産地を過大評価しないことにしていますから・・・・ところで次回のワイン会はどうしましょうか?
南 海 子:タイのワインも注目されているようですが・・・
洋画紳士:タイですか?この分だとアジアのワイナリ巡りもしなくてはなりませんね
南 海 子:テイバーさんはちゃんと記録し、事実を伝えたんだ
洋画紳士:「パリ事件」の記事がTIMEに載った(文字だけの小さな報道で、1ページの1/3ほどのスペースを使ったコラムでした。曰く "Last week in Paris, at a formal wine tasting organized by Spurrier, the unthinkable happened: California defeated all Gaul." 「先週パリで公式のワイン試飲会が開かれた。それは英国人ワイン商・スパリュア氏によって企画されたものだったが、その会で誰も予想しなかったことが起きたのだ:無名のカリフォルニア・ワインが名門フランス・ワインに勝ったのである」)1976年6月7日号(アジア版)。その時はあまり大きな騒ぎにはならなかったらしい。ところがその後、いくつものアメリカの新聞がその事件を取り上げるようになって、上位入賞したカリフォルニア・ワインは酒屋の店先から姿を消したそうです。何しろたったの6~7ドルで売られていたのですから、安いものですよ
酒豪先生:カリフォルニア・ワインが圧勝したことは、新世界ワイン好きの洋画紳士を勇気付けたのではありませんか
洋画紳士:皮肉を言わないでください。私が問題にしたいのは「価値を誰が判断するのか」ということです。ヒュー・ジョンソン氏ですか?ロバート・パーカー氏?それともワイン・コンクールの審査員でしょうか?ワインという「生もの」で微妙な味わいの酒を評価する時に、誰かの「お墨付き」を鵜呑みにすることの滑稽さを指摘したいのです
南 海 子:そういう傾向は芸術作品についても言えそうですね
酒豪先生:ワインも芸術品に似ていますからね
洋画紳士:その通りです。例えばゴッホの作品は現在は「億」単位で取引きされていますが、生前売れたのは一枚だけでした。たった一人の収集家、たった一人の画商、たった一人の評論家が「あなたの作品はいい。大好きだ」と言ってくれたら、そして絵の具代の足しにしてくれと安値でも買ってあげていたら、ゴッホの人生はあのようにはならなかったと思うのです
南 海 子:励ましていたのは弟のテオだけだったのですからね
酒豪先生:芸術の世界ではそのような例はいくつもあると思います。もともとはっきりした基準のない世界なのですから、どうとでも評価できるわけです。絵画然り、ワイン然り
洋画紳士:私が「パリ事件」に注目しているのは(そして目撃者であるテイバー氏の著作を推す理由は)、はっきりした基準が存在せず、いわば世評や格付け、ブランド化などに振り回されているワインの世界に強烈な一撃を喰わせたことに意味があると思うからなんです。
「パリ事件」以来、カリフォルニアはもちろんのこと、南米やオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ・・・とそれこそ枚挙に遑がないほど新興国のワインがのし上がってきています
酒豪先生:たしかに「堰を切った」という感じですね。「パラダイム・シフト」というに足る現象です。「フランス・ワイン、何するものぞ」と言わんばかりじゃないですか
南 海 子:新世界ワイン好みの洋画紳士には心強い風潮でしょう?
洋画紳士:最近はフランスやイタリアのワインよく飲むようになりましたよ。あまり産地を過大評価しないことにしていますから・・・・ところで次回のワイン会はどうしましょうか?
南 海 子:タイのワインも注目されているようですが・・・
洋画紳士:タイですか?この分だとアジアのワイナリ巡りもしなくてはなりませんね
2011年1月24日月曜日
パヴィヨン・ルージュ(マルゴー)Pavillon Rouge du Ch. Margaux 2002 13%
■Ch. マルゴーのセカンド・ワイン「パヴィヨン・ルージュ」を飲む
洋画紳士:今回は直球勝負ではなく、変化球でいってみたいと思います
酒豪先生:さて、どういう趣向ですか
洋画紳士:「パヴィヨン・ルージュ」を用意しました。「マルゴー」にはちょっと手を出せませんでしたので・・・
南 海 子:別に「マルゴー」でなくてもいいですよ。セカンドといっても若い樹のブドウを使っているという違いだけだと聞きましたが・・・
酒豪先生:実際には「マルゴー」とはブレンド率が違っているらしいので、樹が若いというだけでもなさそうです(※使われているブドウ種はカベルネ・ソヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、プチベルド、マルベックなどだが、収穫年により比率は変わるという)
南 海 子:セカンドワインというのは、本家のラベルで出荷するのは憚られるけれど、決して品質が落ちるわけではないので、別の名前を付けて売っているのででょう?
洋画紳士:たしかにラベルの中央に描かれている建物は「マルゴー」のシャトーですし、"PAVILLON ROUGE" 「パヴィヨン・ルージュ」と銘打っていても、その後には" du Chateau Margaux" と続いているのですから、本家の威光は受け継いでいるのです
酒豪先生:売る方も「マルゴー」をちらつかせているし、買う方も「マルゴー」のセカンドだから買う、というところはあるでしょうね。値付けもネームヴァリューを反映しています
南 海 子:"Pavillon Rouge" はどういう意味でしたっけ?
洋画紳士:「パヴィヨン」はいわゆる「パビリオン」ですよ、万博なんかで「なになに館」というのがあるでしょう。「ルージュ」は「赤い」ですから、ラベルに描かれている「赤い館」のことですね。
南 海 子:なるほど・・・「マルゴー」が日本で急に有名になったのは渡辺淳一の「失楽園」がきっかけでしたね
酒豪先生:そう、「マルゴー」なんか飲んだこともない人たちが名前だけ覚えたんです。そして元々高かった値段がいっそう高くなって手が届かなくなってしまった
洋画紳士:他の一級ワインの名前よりもカタカナで発音する時、言いやすいこともあると思います。それに「○豪」は豪華な感じです
南 海 子:冗談好きですね。さて、そろそろ飲んでみましょうか。香りのよさはさすがです、セカンドだからということはないですね。グラスを近づけただけで分ります
酒豪先生:2002年ものですから、そろそろ飲み頃になっているのでしょう。色も薄くなっていますし、香りも豊かで、最初の一口で幾つもの要素が混じりあっていると感じられました
洋画紳士:香りのよさは分りました。そして、香りというのはグラスから立ちのぼるだけでなく、口に含んだ時にも感じられるものですね。しかし味のニュアンスが分るようになるには、私はまだ年季が足りないようです
南 海 子:こういう繊細さが「エレガント」と評される所以だと思います
洋画紳士:初心者には難しい味わいですが、酒豪先生は「マルゴー」を飲んだことがありますか。比べてみてどうでしょう?
酒豪先生:以前飲んだことがあります。今みたいに高価になる前のことですが・・・比較というのは難しいですね。今ここに「マルゴー」があって飲み比べるというのなら、なんとか判断できるかもしれないけれど、かつての記憶と比べることはできない。私にはパーカー氏のような能力はないですよ
■評価
南 海 子:4.5
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4
2011年1月20日木曜日
PROMIS プロミス CA' MARCANDA (GAJA) トスカナ・イタリア 2007 14%
■ガイヤが作った「スーパー・タスカン」の実力はどうか
洋画紳士:これまでに何度かフィリップ・ロートシルト男爵の名前が出てきましたが、イタリア・ワイン界で帝王と呼ばれているのはアンジェロ・ガイア Angelo Gaja です
洋画紳士:これまでに何度かフィリップ・ロートシルト男爵の名前が出てきましたが、イタリア・ワイン界で帝王と呼ばれているのはアンジェロ・ガイア Angelo Gaja です
南 海 子:西洋人は帝王が好きなのね
酒豪先生:ガイアは元々北イタリア・ピエモンテでバルバレスコ、バローロの作り手として有名な人でした。そのガイアがトスカナのボルゲリ村(Bolgheri) に土地を買ってワインを作り始めたのです
南 海 子:"PROMIS" が「約束」だというのは分りますが、ラベルの一番上に書かれている "CA' MARCANDA" というのは何でしょう
酒豪先生:それは彼の会社の名前です。地図で見ればシエナの西の方にあるはずですが、ボルゲリというのは小さな村らしくて、普通の地図には載っていませんでした。でもそこは有名な「サッシカイア」と同じ地域なんですよ
洋画紳士:今日の「プロミス」はカ・マルカンダ社のワインで、輸入元のホームページによると、メルロ55%、シラー35%、サンジョベーゼ10%のブレンドになっています
酒豪先生:イタリア固有種のサンジョベーゼがたったの10%しか使われていないんだ。国際品種を使ったワインだということは知っていましたが、こういう比率は意外でしたね
洋画紳士:"PROMIS" の綴りを "PROMISE" と英語にしなかったのは、イタリア色を出したかったのではないですか
南 海 子:"E" 一文字がサンジョベーゼ10%分の意地を表しているのかしら? ところで、トスカナ・ワインの中でも有名な「サッシカイア」は「スーパー・タスカン」と呼ばれていますね
酒豪先生:トスカナ地方は元々ワインの産地だったのですが、国際的な評価がそれほど高かったわけではなかったのです。「サッシカイア」は1960年代後半から販売を始め、数年後には世界でも超有名になりました。それもそのはず、DOC規格に入らないワインが世界中で高く評価されたのですから一体何のための規格かということになったのです。DOC規格外のワインでIGT(地酒)、VdT(テーブルワイン)扱いだったのですから下克上もいいところですよ。英国のワイン・ジャーナリストがその現象を評して"Super Tuscan" 「トスカナ産の超上質ワイン」と書いたので、以来、トスカナ地方の優秀なワインがそう呼ばれるようになったようです。(※"Tuscan" は英語で「トスカナ人」「トスカナ語」の意)
南 海 子:さて、この「プロミス」、味はどうでしょうね
南 海 子:さて、この「プロミス」、味はどうでしょうね
酒豪先生:深みのある味わいですね。ボディが強い、つまりコクがあるということですね。喉の奥から鼻に抜ける時の香りがいいじゃないですか
南 海 子:高級ワインを飲んだ時に感じることですが、共通している要素としてある種のカビ臭さがあります。別に悪いということではありませんよ、印象ですから
洋画紳士:コルクも上質なものを使っていますね、ちょうど5cm。「オーパス・ワン」やボルドーのいいワインも5cmあります
酒豪先生:抜栓して15分くらいですが、初めに飲んだ時より酸味が弱くなり、逆に甘みを感じるようになりましたね
南 海 子:口当たりも滑らかになったようで、こういう変化も面白いですね
洋画紳士:これは4000円台のワインですが、価格比ではどうでしょうか
酒豪先生:難しい価格設定ですね。考えようによるでしょうが、GAJAを買うとなると何万円もかかるのですから、そう高いとも言えないと思います
南 海 子:5000円未満なら新世界ワインの中にたくさんの候補がありますから悩みますね・・・でも味には満足しています、ごちそうさまでした
■評価
■評価
南 海 子:4.5
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4
2011年1月13日木曜日
Opus One オーパス・ワン 2005 14%
■カリフォルニア・ワインの最高峰に挑む
洋画紳士:今回はカリフォルニア・ワインの傑作として名高い "Opus One" です。
洋画紳士:今回はカリフォルニア・ワインの傑作として名高い "Opus One" です。
南 海 子:ラベルに二人の横顔が描かれていますが、これはロールシャッハ・テストですか。
酒豪先生:南海子さんも洋画紳士みたいな冗談を言うようになりましたね。この二人はロバート・モンダヴィとフィリップ・ロートシルト男爵です。ラベルの下の方には二人のサインも入っています。
洋画紳士:オーパス・ワンは彼らのジョイント・ヴェンチャーとして造られたワインです。肖像とサインは、このワインについては自分たちの名誉にかけて保証するということでしょうね。カリフォルニアの最上のブドウとムートンのノウハウとの幸福な結びつきの証なんですよ。
酒豪先生:裏のラベルには、「OPUS およびOPUS ONE、横顔のシルエット・デザインは登録商標である」と書かれています。つまり、他のワイナリはOPUS TWO, OPUS THREE などを商標に使うことは出来ないわけです。
南 海 子:「オーパス・ワン」の名前の由来は?
洋画紳士:"opus" というのは「仕事」、「作品」という意味のラテン語で、「オーパス・ワン」は「作品1」ということです。これは音楽だけには限らないのですが、たとえばベートーヴェンのピアノソナタ 第23番「熱情」はOpus 57 ですし、交響曲 第5番「運命」は Opus 67です。どうやら彼らは音楽好きなのでしょう、オーパス・ワンのセカンド・ワインには "Overture" 「序曲」と名付けているほどですから。
酒豪先生:そもそも、この安いとはいえないワインを買ってみようと思ったのは、先日所要で銀座に行った帰り、新橋に向って歩いている時に、小さなワイン・バーがあることに気がついて入ってみたんです。
南 海 子:そのバーはほんとに小さなお店で、もともとは酒屋さんだったらしい。何しろ銀座にはお酒を飲ませるところは居酒屋から超高級バーまで数え切れないくらいあるはずですから、配達だけで営業できるのでしょう。小さな空間をワインバーにして改造して、カウンターでグラスワインを飲めるようにしてあったのです。
酒豪先生:そこで飲んだオーパス・ワンがよかった。このカリフォルニア・ワインの名前は聞いたことはあったのですが、これほどの完成度に達しているとは思っていなかったのです。
洋画紳士:どんな味だったのですか?
酒豪先生:味を言葉で表現するのは難しい・・・ぼくが思ったは、ブドウから作られた最も完成度の高い酒の一つだということでした。
洋画紳士:「の一つ」という言い方に含みがありそうですね。
酒豪先生:そうです。酒を評価する時に「最高」とか「究極」とかいう言葉は使うものではない、と思います。というのは、飲む方の嗜好や経験の質・量、そしてその時の気分や体調などの要素が複雑に絡み合っているのですから、簡単には言えない。飲んだその時、ある感想を持つというだけなんです。
南 海 子:銀座では、ちょっとしたおつまみだけで飲んだので、食中酒としてのワインを、しかもこれほどの高級ワインを語るにはお膳立てがちょっとカンタン過ぎました。
洋画紳士:なるほど、では今夜、銀座での経験が再現できるかどうか・・・・飲んでみましょうか。
酒豪先生:口に含んで、香りが上顎から鼻に抜ける時に感じる風味がいい。ある強さがあって、口の中の粘膜に沁みこんでいくようです。
南 海 子:香りが印象的ですね。深みがあって本格的です。今でも完成度の高さは分りますが、2005年物ですからあと数年熟成させたらもっとよくなったかもしれません。
洋画紳士:私がいつも参照しているH. ジョンソンのワイン・ハンドブックには「本家のムートンも油断なきように」と書かれています。
南 海 子:その言い方も面白いですね。いいワインだけれど、ムートンにはまだ比肩できていない。しかし油断していたら追い越されてしまうよ、というニュアンスが込められているように感じました。
酒豪先生:オーパス・ワンのワイナリはナパの北側に位置するオークヴィルにあり、モンダヴィの畑の斜向かいです。この辺りは最上のカベルネが実るといわれている地域ですが、オーパス・ワンのブドウはトカロン畑(To Kalon Vineyard)で収穫されたものだそうです。使われているブドウはカベルネソーヴィニヨンが主ですが、単一品種ではなく、ボルドーの流儀でメルロやカベルネフラン、マルベックなどのブレンドのようです。具体的な品種についてはラベルには記載されていませんが・・・
洋画紳士:私は一級ワインで飲んだことのあるのはムートンだけですが、オーパス・ワンの方が好きだな。「力」を感じますし、素直においしいと思えますから。
南 海 子:やはり洋画紳士は新世界ワイン好きなんですよ。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4.5
2011年1月8日土曜日
D. Paul Mas ドメーヌ・ポール・マス ラングドック・ルーション 2009・13.5%・シャルドネ&ヴィオニエ
■新年会にヴァン・ド・ペイを飲む
洋画紳士:Languedoc(ラングドック)という地域がありますが、あれはもともと中世にロワール河以南で使われていた方言を指す言葉だったらしいですね。つまり、Langue(言葉)+ oc(オック語で "oui" の意)というのです。
酒豪先生:あれ、今日はフランス語の話から始まるのですか。コノスルの時はスペイン語でしたね。
南 海 子:フランスの地中海に面した地域はぶどう作りが盛んだと聞きましたが、"d'oc" というのはどのあたりですか?
洋画紳士:ロワール河以南というと大雑把過ぎてフランスの半分くらいになってしまう。もっと狭くいうと"d'oc" はリヨン湾に面した南部地方のことだと思います。
酒豪先生:地中海沿岸地域は、ボルドーやブルゴーニュのような中~高級ワインの産地ではなく、テーブルワインの産地として知られていましたが、近年(1970年代から)ヴァン・ド・ペイ表示が認められるようになってから注目を集めるようになったそうです。
洋画紳士:中~高級品の多くはAC(原産地呼称統制)で厳しく規制されているのに対して、ヴァン・ド・ペイ(Vin de Pays) は規制が緩く、伝統品種以外のブドウ種を使ってもよいことになっています。品質表示ではその下にヴァン・ド・タブル(Vin de Table) という日常酒としてのワインがあり、こちらは原産地も品種、生産年も表示する必要はないのです。
話が飛ぶようですが、マグナムの写真家でアンリ・カルティエ・ブレッソンという人をご存知でしょうか。スナップ写真の第一人者といわれた人で、いくつかの作品はきっとどこかで見たことがあるのではないかと思いますが・・・
南 海 子:洋画紳士らしい脱線ですね。ヴァン・ド・ペイの話からいきなり写真ですか。
洋画紳士:ブレッソンの撮った作品で、フランス人の男の子が両手に二本の大瓶を持ってお使いから帰る情景を写したもの(「パリ・ムフタール通り。日曜日の朝、食品買入れの光景」1958)があります。空き瓶を持って酒屋に行き、量り売りのテーブルワインを買って来たのでしょう。フランス人は何しろ飲む量が違いますから、いちいち銘柄ワインを飲んでいるわけではない。量り売りの安ワインが日常酒なのです。
南 海 子:やっと話がつながりましたね。では名もない日常酒をヴァン・ド・ペイ規格を作って格上げしたのはなぜ?
酒豪先生:それはフランスのワイン生産者にとって脅威になりつつある新世界ワインに対抗するための新戦術だったわけです。ヴァン・ド・ペイなら世界品種のカベルネソーヴィニヨンやメルロー、シャルドネなどをラベルに大書して勝負することができるようになるのです。
南 海 子:このワインにはシャルドネとヴィオニエの二種類のブドウが使われていると書かれています。
酒豪先生:前置きが長くなってしまいましたが、さっそく飲んでみましょう。
南 海 子:グラスを鼻に近づけただけでフルーツの香りがします。味も悪くないようです。
酒豪先生:色もきれいな黄金色ですね、でも少し薄いかな。
洋画紳士:たしかに香りはいいけれど、少し舌に苦みが残る感じです。
南 海 子:苦みも、実は味の要素の一つですし、そんなに気になりませんでした。
酒豪先生:抜栓した時より香りが良くなってきました・・・まだ十分くらいしか経ってないのに・・・
洋画紳士:1500円未満なら合格というところですか。
南 海 子:もちろん。それに瓶の形もどっしりしたブルゴーニュ風ですし、ラベルに描かれた水鳥の絵もきれいで、私は気に入りました。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:3.5
2011年1月3日月曜日
Newton ニュートン・シャルドネ、ナパ・2007・15%
■ナパのシャルドネを飲んでみる
洋画紳士:ナパには優れたワイナリがたくさんあるらしいのですが、このNewtonは中堅どころのようです。
南 海 子:ナパのシャルドネはフランスの名門と肩を並べる水準だと言われていますが、ボトルのデザインもブルゴーニュを意識したデザインのようですね。
酒豪先生:ナパというのはサンフランシスコの北方にある丘陵地帯でカリフォルニア・ワインの中心地になりました。
洋画紳士:Newtonはナパとソノマの境にある比較的標高の高い場所(スプリング・マウンテン)にあるワイナリのようです。このシャルドネはブレンドで、ナパ63%、ソノマ37%と表示されています。カリフォルニアのワイナリではあまり産地にこだわらずに良いブドウを買ってきてブレンドして醸造することも多いらしい。
酒豪先生:アメリカ人らしい合理主義でしょうね。またナパやソノマにはたくさんのブドウ畑があるので、ワイナリが求めているブドウが入手しやすいという条件も揃っているのだろうと思います。
南 海 子:いつか飲んだカレラのシャルドネもブレンドした比較的安いものと、単一畑の名を冠した高価なものがありましたが、値段ほどの差は感じませんでした。
酒豪先生:そうでしたね、コストパフォーマンスではブレンドに軍配が上がりました。
南 海 子:前置きはこのくらいにして、飲んでみましょうか。香りはいですね。
洋画紳士:粘性もたっぷりあって舌の横の部分で甘みを感じます。
酒豪先生:洋画紳士は舌で味わうんですね。私は口に含んだ時の香りを評価します・・・いい線いってます。2000円台なら上等です。
洋画紳士:H. ジョンソン氏はワインハンドブックの中でこのワイナリを「贅沢な葡萄園」、「豊麗さを感じさせる」と評していますよ。
酒豪先生:たしかにカリフォルニア産らしい厚みを感じさせる味ですね。でも高級ワインと比べると何か物足りない。
洋画紳士:酒豪先生はすぐにブルゴーニュの高級ワインと比較しますね。値段が1/10なんだからそこのところは斟酌しなくては・・・
酒豪先生:理屈ではそうですが、われわれ素人はどうしても比較法でしか判断できないものですからね。
南 海 子:裏ラベルにはNewtonは「ナパヴァレーを見下ろすスプリング・マウンテンの急峻な頂にある」と書いていますが。私はカリフォルニアのワイナリは平地にあるとばかり思っていました。
酒豪先生:ナパ・ヴァレーというからには周りは丘陵でなければならないわけです。山があって谷があるのですから。
洋画紳士:サンフランシスコは霧で有名ですが、その霧が周辺の気象に影響を与えているようですね。ナパ・ヴァレーという名称だけでテロワールを特定することはできないと言われています。このワインの出来がいいのも霧の恩恵があるのかもしれません。
■評価
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5
2011年1月2日日曜日
ピション・ラランド Ch. Pichon Longueville Comtesse de Lalande 2003 13%
■忘年会にポイヤックの二級ワインを飲む
洋画紳士:今日は年末ということで、年忘れにちょっといいワインを用意しました。
南 海 子:あ、ボルドーだ。洋画紳士好みの新世界ワインではないのですね。
酒豪先生:えっ、こんなにいいワインでしたか。ごちそうさまです。これはポイヤックでもいいワインの一つですよ。
洋画紳士:いつも新世界ワインを飲んでいるので、時には本家のボルドーを飲んでみようかなと思うことがあります。それで今夜は忘年会用に奮発したというわけです。
南 海 子:2003年ものですが、色は薄くなり透明になりつつありますね。グラスに注いだ時の泡もきれい。ポイヤックはボルドーのどの辺でしたか?
酒豪先生:ジロンド河の西岸・メドックの中ほどがポイヤック Pauillac で、ピション・ラランド・ロングヴィルの畑はポイヤックの南にあり、一級ワインのシャトー・ラトゥールの畑に隣接しています。
南 海 子:つまり絶好のテロワールということ?
酒豪先生:そうです。ピション・ラランドはスーパー2級と呼ばれてきましたし、実力は相当なものですよ。このクラスになると一級、二級の格付けはあまり問題ではないでしょう。
南 海 子:香りだけでも分りますが、口に含むとバターとカカオの風味を感じます。それにナッツの香りも混じっていますね。
酒豪先生:飲んだ時の印象ではラフィットに近い味です。そしてボルドーの高級ワインに共通する香りの良さを持っています。味はバターのような柔らかさとビロードの滑らかさを併せ持っているというところですね。香りは表現する言葉が見つからないけれど、僕の一番好きな香りの一つです。口の中から鼻に抜ける時、幸せな気分になります。
南 海 子:香りは植物エキスの究極のもの。ある種のハーブ香と共通していると思いました。
洋画紳士:お二人とも絶賛ですが、私には分りにくい味です。別にまずいというのではないし、安いワインとは違うということは分るのですが、格別うまいとも思いませんでした。つまり良さが分らないのです。
南 海 子:洋画紳士は新世界ワインの強烈さが好みなんですよ。だからカリフォルニア、チリ、アルゼンチンなどのおいしいワインを発掘することができたのでしょう。
酒豪先生:実際、あまり高くなくておいしいワインをいくつも見つけてきたのですから、新世界ワインに対する感性はいいんですよ。
洋画紳士:正直言って初めてボルドーの一級ワインを試飲会で飲んだ時の経験に似ています。あの時はムートン・ロートシルトでしたが、うまいともまずいとも判断できませんでした。これがボルドーの一級かと思っただけで・・・つまり二年以上経っても私の味覚はあまり進歩しなかったということかな・・・
酒豪先生:そうでもないでしょう。むしろ進境著しいくらいじゃないですか。高級ワインはそうしょっちゅう飲むものではないから味に慣れていないだけだと思います。
南 海 子:一つは慣れの問題、もう一つは嗜好のタイプが新世界ワインに向いているということでしょう。
洋画紳士:そういうことでしょうね。まあいずれにしてもワインについては「道遠し」というところですか。
■評価
■評価
南 海 子:4.5
酒豪先生:4.5
洋画紳士:判断できず、パス
2010年3月16日火曜日
Baron Philippe de Rothschild バロン・フィリップ・ド・ロートシルト チリ・マイポ 2008 14%
洋画紳士:先月末にチリで大地震が起きました。偶然ですが今夜のワインはチリ・マイポヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンです。
南 海 子:マイポの近くが震源だったのでしょうか?
酒豪先生:いえ、距離はだいぶ離れているようで首都サンチャゴの南にあるコンセプシオンという街の近くらしい。震源の付近にもワイナリがたくさんあるようです。
洋画紳士:そうですか・・・ところでマイポ・ヴァレーというのはチリ有数のワイン産地のひとつですが、おもしろいのは、このワインの名前です。会社名やワイナリ名がついていません。その代わりに "Baron Philippe de Rothschild" と銘打たれていて、あとはブドウ種とReservaと書かれているだけです。
南 海 子:どういうことかしら。
洋画紳士:ロートシルト家の技術を使って、チリでワインを生産しているという強い主張が名前に込められているのでしょう。
酒豪先生:ロートシルト家の名のつく一級格付けのシャトーはボルドーに二つあります。(そのうちのひとつであるムートン・ロートシルトが二級から一級に格上げされたのは1973年のことで、こんなことは過去になかったことです。この異例の見直しは Baron Philippe de Rothschild の多大な尽力があったと言われています)。さらにカリフォルニアでは「オーパス・ワン」を、チリでは「アルマヴィーバ」を共同で生産し、それぞれ最高級の評価を得ているのですから、さずがです。
洋画紳士:その土地で採れる最上のブドウとロートシルト家がボルドーで培った技術との幸福な結びつきによって傑作が作られたわけですね。「オーパス・ワン」、「アルマヴィーバ」と高級路線で成功したので今度は自信をもって Baron Philippe de Rothschild の名前を前面に出したのでしょう。
南 海 子:フィリップ・ド・ロートシルト男爵というのはどういう人ですか?
酒豪先生:フランス人です。ユダヤ系大財閥の御曹子で、野心家だったらしいですね。
洋画紳士: Rothschild というのは英語読みで「ロスチャイルド」です。お金持ちといってもスケールが違う。何しろ戦争の時、国家に戦費を貸し付ける程の財力を持っていたのですから。
南 海 子:そうですか、才覚と野心があってお金持ちだったら、文字通り鬼に金棒ですね。何でもできてしまう。
酒豪先生:そう、ワインの世界に君臨しようとしたのですからね。
酒豪先生:さて、前置きが長すぎました。試飲を始めましょう。グラスから立ち上る香りがいいですね。そして滑らかさがあって、おいしいと思います。
南 海 子:そう、いいですね。まだ若い(2008年)せいもあるかもしれませんが、ボルドー風というより新世界ワインの味の傾向です。あと数年は寝かしておいてから飲んでみたい。
洋画紳士:なるほど、素性がいいだけに評価するには早すぎたかもしれません。
酒豪先生:最近は飲み手がせっかちになったせいか、若いうちに飲むようになっているので、ワイナリでも早く飲まれることを前提に出荷しているかもしれませんよ。
私個人としては、今でも十分においしいし、これが2000円くらいで買えるのなら十分な品質だと思います。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4
2010年2月7日日曜日
Franciscan フランシスカン・カリフォルニア・メルロ・2005・13.5%
■ナパヴァレーの実力派ワインを味わう。
洋画紳士:フランシスカンはカリフォルニア・ナパヴァレーのワイナリーで、有名なオーパスワンの畑と道一本隔てただけの場所にあるそうです。
洋画紳士:フランシスカンはカリフォルニア・ナパヴァレーのワイナリーで、有名なオーパスワンの畑と道一本隔てただけの場所にあるそうです。
酒豪先生:おもしろいものでブドウ畑というのは、隣接しているからといって同じワインができるとは限らないのです。
南 海 子:そうらしいですね、ボルドーやブルゴーニュでも同様ですが、隣接したりして立地的にはほぼ同じなのに製品としてのワインは違ってくるのですからね。
洋画紳士:でも、フランシスカンはナパヴァレーでも評価の高いワイナリーですし、素性もよさそうです。しかも値段が3000円以下ですからお買い得じゃありませんか。
南 海 子:グラスを鼻に近づけた時の、最初の香りがいい。それから少し口に含んだ時に「梅の甘味」を感じました。
酒豪先生:味にクオリティがありますね。まっとうな作り方をしているんだろうな。
洋画紳士:「梅の甘味」というのは南海子さん独特の表現ですが、言い得て妙ですね。
南 海 子:そうでしょう、おいしいという意味ですから。それにしてもいいワインを見つけましたね。絶対評価でもおいしいし、コスト/パフォーマンスを考えると最上クラスです。
南 海 子:ところでワインの宣伝文に「収穫は手摘みで行っている」と書かれていることがありますが、現在、ワインを作るときのブドウはすべて手摘みなのですか?
酒豪先生:高級ワインはもちろんですが、中級くらいから手摘みのようですね。
洋画紳士:果実の収穫をする人のことを英語で"picker"「ピッカー」と呼ぶのですが、"pick" という単語には「選び取る」という意味があります。ですから、"pick" はただブドウを摘むのではなく、完熟ブドウを「選んで摘み取る」ことなのです。十把一絡げの機械摘みよりは後の選別作業もやりやすいでしょう。ワイン作りは何といってもいいブドウがあって始まるのですから、摘み取りは大切な作業なのです。
酒豪先生:それはその通り。でもいいブドウを作るためにはいい畑が必要だし、その土地、気候(テロワール)に合ったブドウ種を選択しなければならないのではありませんか。ワイン作りは総合点が大事だと思います。
南 海 子:つまり、自然と人間との協力がうまくいくかどうかがワインの出来を決めるわけね。
洋画紳士:さて、摘み取りに関して言えば、スタインベックの小説をジョン・フォード監督が映画化した『怒りの葡萄』"The Grapes of Wrath" という作品がありました。1930年代、オクラホマの貧農たちが小作畑を追い出されてカリフォルニアに新天地を求めて移住する話です。
南 海 子:洋画紳士お得意の話題ですね。でもスタインベックの『怒りの葡萄』はワイン作りの話でしたっけ?
洋画紳士:いいえ、そうではありません。ぼくは「摘み手」"picker" のことを言おうとしているのです。農民たちは一枚のチラシに一縷の望みを抱いて移住を決意するのですが、そのチラシにはカリフォルニアの農園で果実の摘み取り人を大量に募集していると書かれており、賃金も悪くない。家族総出で働けばやっていけると思ったのです。彼らがカリフォルニアで最初にありついた仕事は桃の収穫でしたが、強欲な農園経営者とトラブルになり、そこを逃げ出して次に見つけた仕事は綿花の摘み取りでした。
酒豪先生:え、ブドウ摘みではなかったのですか?タイトルから想像してブドウ農園が舞台かと思っていたのですが・・・
洋画紳士:『怒りの葡萄』という題名の由来は、農園の悪徳経営者に対する怒りが、たわわに実るブドウのように貧農民たちの内で大きくなってゆくという、賛美歌から採った比喩なのです。 というわけでブドウ畑は(そして桃畑も綿畑も)スクリーンには出てきません。それに "The Peaches of Wrath" ではタイトルとして迫力がない。また、スタインベックは社会主義のシンパだったようで、果実収穫の季節労働者が足元を見られて低賃金で使われる様子を告発したかったのでしょう。
酒豪先生:おやおや、また映画論ですか、洋画紳士はそういったことに憑り付かれているようですね。そもそも完熟したブドウをどうやって収穫するかという話題がなぜ映画や言葉の話題に移ってしまうのか分かりません、困ったことです。
南 海 子:それは洋画紳士の感性ということでいいじゃありませんか。私たちはそれぞれ異なる価値観の中で育ってきたのですし、感性の違いだって認めなくてはいけないと思いますよ。洋画紳士はブドウを収穫する季節労働者をイメージした瞬間、カリフォルニアを舞台にした『怒りの葡萄』を思い浮かべたのでしょうね。
■評価
南 海 子:4.5
酒豪先生:4.5
洋画紳士:4
2010年1月24日日曜日
Chateau Bellevue シャトー・ベルヴュー 1990 12.5%
■1990年ヴィンテージのボルドーを飲む。
洋画紳士:これまでは新世界ワインを取上げることが多かったので、2010年最初の試飲はボルドーにしてみましょう。しかも優良ヴィンテージの誉れ高い1990年ものです。
南 海 子:ワイン雑誌には1990年は「秀逸」な年だったと書かれていますね。丸十九年経っているのですからお値段も高かったんじゃありませんか?
洋画紳士:あまり期待し過ぎないでください。1990年ものといっても格付けされた高級ワインではありません。普通のボルドーで(Bordeaux Superieur)、値段が安かったので買ってみたのです。
南 海 子:そうですか・・・でも色は熟成されたワインの色です。茶色がかっていて、薄い色ですね。
酒豪先生:悪くありませんよ。2000円前後で買えたのなら上等の味です。コルクは劣化してるようで変色していますし、ワインに触れている部分には酒石酸の結晶が付いていますね。
南 海 子:ほんとだ、いくつも光っています(青背景の写真参照)。
洋画紳士:この結晶は飲んでもかまわないものですか。
酒豪先生:何でもありませんよ。コルクに付いているということは底にも沈んでいるはずですが、飲んでも平気です。おいしいわけではありませんが。
南 海 子:香りの成分の中に一種のカビ臭さを感じます。別に悪いという意味ではなくて、比喩ですから。熟成の証拠に飲んだ後に口から鼻にかけて深い味わいが残っていますね。
酒豪先生:色はいいけれど、高級ワインの年代物を飲んだ時に感じる強い印象はないですね。
洋画紳士:それはそうです。値段との相対評価でなければ、不公平というものです。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:3.5
2009年12月26日土曜日
Don Cristobal 1492 ドン・クリストバル 1492 Malbec マルベック・2006・15%
■アルゼンチン・ワイン、恐るべし。
洋画紳士:新世界ワインというと、カリフォルニア、チリ、オーストラリアなどが思い浮かびますが、忘れてはいけないのがアルゼンチンです。
かつて、ブエノスアイレスは「南米のパリ」と謳われた美しい都市であり、周辺諸国が政治的トラブル続きだった中で独りエリート国として存在感を発揮していました。
もっとも迎合政策のツケが廻って今世紀の初めには国家が破綻してしまったわけですが、それでも国の底力は侮れないものがあります。
アルゼンチンはワイン生産でも世界第五位という大産地で、しかも質も良く、とりわけマルベックの評価が高いのです。
南 海 子:あまり聞かない品種ですね。
酒豪先生:このブドウはアルゼンチンでは最大の生産量があるようです。土地、とりわけメンドーサ州のテロワールに合っているのでしょう。
マルベックはもともとフランスのワイン産地ではブレンド用に栽培されていたものですが、アルゼンチンでは単一品種で成功したのです。
洋画紳士:H.ジョンソンの『世界のワイン』によれば、18cのボルドーではマルベックが主力品種だったそうで、19c中頃にフィロキセラ禍以前の苗がチリ経由でメンドーサ州に移植されたようです。
洋画紳士:チリとアルゼンチンは地図で見るとアンデス山脈を挟んで隣同士で、ワイン作りでもライバル関係にあるようですね。
南 海 子:競争相手があった方が双方とも成長するでしょう。私たちとしてはチリ vs. アルゼンチンの切磋琢磨が楽しみですね。
洋画紳士:そのとおり。さて、今日試飲するワインはクリストバル Cristbal 1492 というワイナリーのマルベック Malbec 2006年です。
南 海 子:見るからに濃いワインですね。アルコール度数は15%と破格に高いし、味もインパクトがあります。
酒豪先生:「押し」が強いのです。でも馬力だけでなく、質の高さも感じます。
洋画紳士:いかにも滋養がつきそうな重量感じゃありませんか。飲み込んだ後も口の中にワインの成分が残っているような濃さを感じます。いわば余韻が長続きするとでもいうのかな。
南 海 子:フランス・ワインの繊細さとは別の特徴ですね。洋画紳士の好みではありませんか。いいのが見つかってよかったですね。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4.5
2009年12月8日火曜日
コノスル カルメネール・レゼルバ ConoSur Carmenere Reserva 2007 14%
■カルメネール、再び。
洋画紳士:前々回取上げたばかりなのに、またもやチリ・カルメネールの登場です。
南 海 子:カルメネールは洋画紳士のお気に入りのようですね。
酒豪先生:私もこのセパージュ(ブドウ種)のワインは好きですよ。安い割には重厚感がああるし、飲んだ後の満足度もありますから。
南 海 子:そうですね、値段との相対評価でもいいワインだと思いますが、絶対評価をしても高水準だと思います。
洋画紳士:お二人とも評価が高いですね。1200円台でこれほどおいしいワインというのは特筆ものです。さすがコノスルというところですね。
さて、ヒュー・ジョンソンは『世界のワイン』に、カルメネールは痩せた土地に合うと書いています。これは面白いですね。肥沃な土地で作物がよく育つというのなら理に適っていると思うのですが、痩せた土地とはね・・・
酒豪先生:チリに限らずどこのワイン産地でも、土地が豊か過ぎたり肥料をやりすぎたりするのはマイナスらしいですね。それどころか水が多すぎてもうまくいかないと言われています。
南 海 子:それはどうしてですか。土地が豊かで水をたっぷりやった方がよく育つと思いますが。
洋画紳士:どうやらブドウを「甘やかさない」ためらしい。土地が痩せていて、水分も少なめだと、植物の習性として地中深く根を張ろうとするでしょう。そうなると地層の深い所からミネラルなどの栄養分を吸い上げるようになり、その土地特有の風味が生まれるのではないかと云われています。
酒豪先生:日本でも「永田農法」というのがありますね。トマトなどの栽培で水も肥料も必要最小限しか与えずにその植物が持っている潜在力を最大限に引き出そうというものです。とても甘いトマトができるそうですよ。
南 海 子:いいブドウ園では栽培家たちが丹精してブドウを育てていると聞きますが、それは「甘やかさない」ことと矛盾はしないのですか。
洋画紳士:その土地とブドウの特性を生かし長所を伸ばすのが丹精でしょう。ブドウの房の数量管理や害虫・病気の予防などはきちんとしないといけない。しかし甘やかしてはいい樹になりません。
南 海 子:まるで子供の躾や教育みたい。
酒豪先生:今日のカルメネールは躾がよかったということですね。
■評価
南 海 子:4
酒豪先生:4
洋画紳士:4
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